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米津玄師 – 「LOSER / ナンバーナイン」レビュー

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米津玄師、約1年振りとなる両A面シングル「LOSER / ナンバーナイン」が本日9月28日にリリースされた。

最初に言っておこうと思う。このシングルは、シングルなんていう言葉で片付けられない作品だ。1曲目「LOSER」のイントロが始まった瞬間、全身から鳥肌が立ち、体が硬直した。こんな体験は、様々な音楽を聴いてきているがそうある事ではない。最初の10秒程度で、このシングルがとんでもない次元にある作品だと思わせるには十分だった。
3曲収録のシングルなのだが、聴き終えた後、ミニアルバム、いやアルバムを聴いたかのような感覚に陥った。それほど別格の作品群だ。

さて、最初に戻ろうと思う。
「LOSER」のイントロで体が硬直して、胸の鼓動が止まらなくなった僕の気持ちも楽曲が進むにつれ、少しずつ冷静に聴けるようになってきた。すでに夏フェスでは披露されていたこの楽曲は、米津玄師自身夏フェスを観客として観る側だった頃の気持ちももしかしたら内包されているのではないか。と感じた。
どこまで行っても、米津玄師自身1人で様々な制作を繰り返し、空いた時間にはネットやゲームの世界にいるという米津玄師。そして、そんな自分の事を「負け犬」と語る彼にとっての現在地点を確認する為の非常に大切な楽曲だと思う。
しかし、そんな米津玄師も、今となってはそのステージ側の人間だ。2016年ロックインジャパンフェスではトリを飾り、高らかにこの「LOSER」を歌った。その瞬間は全てがひっくり返る革命の時間だったのではないだろうか。
約4分のこの楽曲を聴いている最中、そんな事が頭の中を巡り続けた。

・愛されたいならそう言おうぜ 思ってるだけじゃ伝わらないね
・アイムアルーザー どうせだったら遠吠えだっていいだろう もう一回もう一回行こうぜ 僕らの声
・ここいらで一つ踊ってみようぜ 夜が明けるまで転がっていこうぜ 聞こえてんなら声出していこうぜ

という歌詞にも彼の奥深くにある想いが表れている気がした。
じっくりと聴けば聴く程、引き込まれるサウンドと詞の世界。楽曲に隠された様々なピースが胸に突き刺さってくる。
息を飲む米津玄師の声から始まり、非常に攻撃的且つダンサブルなイントロのギターリフと強靭なリズム隊が入ってくる。そして楽曲はよりタイトに、シンプルに攻めてくる。そして、本人がHIP HOPの要素が入っていると言う通り、これでもかと言葉が詰め込まれている。
米津玄師の過去のどの楽曲とも似ていない、全く新しい世界観・サウンドの楽曲だと思う。きっと、このシングルを再生した瞬間、あなたは息をするのを忘れてしまうだろう。この「LOSER」という楽曲は、それ程のインパクトを持った1曲だ。

歯切れよくカットアウトで「LOSER」が終わると、続いて全く違う感触のシンセサイザーが鳴り響く。「ナンバーナイン」のイントロは優しい。印象的なボイシングのシンセサイザーのコードと、そのバックで更に優しい電子音が流れる。
この楽曲は、ルーヴル美術館特別展「ルーヴル No.9 ~漫画、9番目の芸術~」の公式イメージソングとして書き下ろされた作品だ。元々、楽曲以外にもアートワークも自身でこなし、幼少期の夢が漫画家であったという米津玄師だからこそ書き下ろせた楽曲だと思う。
こちらも、今までの米津玄師のサウンドアプローチから、更なる進化をしていると思った。全く新しい感触。

「芸術」、一言で言うならば、この楽曲のテーマはこれに尽きるのではないだろうか。
過去の偉人達が残した素晴らしい芸術。そして、現代に生きる芸術家達の作品、過去と未来を繋ぐかのような歌詞の世界観。そして、それを表現するサウンドアプローチ。1曲目「LOSER」とは全くタイプの違う、敢えて明確なアレンジを避けたのではないかと思わされる、アンニュイな表現が目立つ。しかし、米津玄師の素晴らしいメロディと歌詞・歌唱によって、1度聴いたら忘れられない楽曲に仕上がっている。絶妙なバランス感覚だ。
こんな楽曲をどうやったら書けるのだろうか。ただただ素晴らしい楽曲だ。

少し歪んだシンセベースがイントロを引っ張る。そして、米津玄師の歌が始まるとデジタルなビートがさりげなく入ってくる。サビ前まで、印象的なシンセのオブリフレーズが飛び交い、リズム遊びで楽曲を盛り上げる。そして、サビと同時にシンセベースが印象的に戻ってきて楽曲を一気に盛り上げる。2度目のサビ後、コーラスワークが素晴らしい。その上で歌われる歌詞もまた素晴らしい。

・何千と言葉選んだ末に 何万と立った墓標の上に 僕らは歩んでいくんだきっと 笑わないでね
・砂に落ちた思い出が息をしていた 遠く遠くから届いていたんだ 誰もいない未来の僕らの声が 美しくあれるように

そんな彼の想いがサウンドと共に溢れてくる。そして、僕は思う。大丈夫、米津玄師の声はきっと何百年後の未来でも美しくあれる。と。
新たな試みのサウンドアプローチ、とても深く素晴らしい歌詞の世界観、米津玄師の優しい歌唱、全てにおいて美し過ぎる楽曲だ。

さて、あっという間にシングル3曲目最後の楽曲だ。「amen」、この楽曲を最初に聴いた時、とても物語的だな。と感じた。
アレンジはもちろん、歌詞も含め1曲通して1つのストーリーを観せられたかのような気持ちになった。
ここで描かれる歌詞の世界もまた深い。米津玄師の歌詞は昔からそうだが、彼にしか書けない哲学だと個人的に思っている。他の人には絶対に書けない感覚だと思う。
日本語の成長というものがあるとしたら、彼は日本語詞を確実に進化させている。

・悲しい思い出はいらないから ただただ美しい思い出を 祈りの言葉を amen

サビの最後で歌われるこの言葉が、この楽曲の核心をついているのではないだろうか。
サウンド面に関して言えば、特に印象に残ったのは、サビの出だしの上昇してゆくコード進行だ。それに優しく寄り添うように彼にしか書けないメロディが歌われる。美しい。ただただ美しい。そして、上昇したコードは広がりを持ってサビ後半になだれ込む。そう、まるで聖歌のように。コードが開ける事で、一気に救いが訪れる。
また、1度目のサビ後、歌詞とリンクするかのような不安な音色のアレンジがなされている。今作のどの楽曲にも言える事だが、歌詞と楽曲が切り離されている部分がなく、歌詞にサウンドが寄り添い、サウンドに歌詞が寄り添っている。そうした事で、より楽曲が印象的に鳴り響いている。

そして、この「amen」では、西洋の世界観を感じるのだが、歌詞には「東京」というワードが出てくるあたりに心地いい違和感があり、中毒性を孕んでいる。

聴けば聴く程、その凄さに感心させられる聴きごたえのある楽曲だと思う。

上記した、この3曲が1枚のCDに収められているという奇跡。これは本当に革命的なシングルだ。
きっと米津玄師本人にとっても、新機軸なんていう安っぽい言葉で片付けられないターニングポイントになるシングルになるだろう。1年振りにリリースされるこの「LOSER / ナンバーナイン」で、彼は彼の新たなストーリーの幕を開けたと思う。

これはきっと始まりでしかない。
2016年11月から始まるツアー「はうる」で、この楽曲達を含め彼の新しい世界が観れるのではないだろうか。今から楽しみで仕方ない。

学生時代より、様々なアーティストへ憧れ、ハチ名義でニコニコ動画へ自身の楽曲の投稿を始めた高校生は、凄まじいスピードでカリスマになった。今、この日本に存在するソロミュージシャンで、彼以上の天才を僕は知らない。
今作の3曲で、それは僕の中で確信に変わった。

米津玄師 MV「LOSER」



Kohei Murata

Kohei Murata編集長・ライター

投稿者の過去記事

バンド活動を通して、自分の音楽を世界に発信する事を志しながら、同時に仕事での独立を目指して様々な業種を経験する。バンドでは日本のみならず台湾でも活動を行い、台湾でのアルバム2枚のリリースや大型野外フェスティバルへの出演も果たす。
その後、様々な仕事を経験し2015年独立。
現在は音楽メディアOptimanotesの編集長兼ライターとして、記事の執筆をしている。

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