神西亜樹「透明な林檎」 Vol.16 – 主題歌を見られる時代

「なあ神西」とジジノスケが言った。「お前、最近アニメをよく見てないか」

ジジノスケは空想猫だ。怠惰で、目が合うたびにあくびをしているが、たまに鋭いことも言える猫なのだ。
たしかに僕は今クール、意識的にアニメを見ている。粒ぞろいだからだ。アニメを見ない人たちは知らないかもしれないけど、コロナウィルスの影響で、春からアニメ制作の多くが滞っており、延期が発表されてきた。半年経った現在、その延期分が一挙に放映を開始しているんだ。3クール分の大作が集っている状態といっても過言ではないんだよ。

「たしかに、猫でも知ってる作品がチラホラあるな。ひぐらしのなく頃にとか」

猫に人気なの?

「うまそうな肉が出るから」

そうかい。
ひぐらしは、リメイクが発表された当初は「どうして今さら」なんて言われていたけど、蓋を開けてみたらストーリーが原作とわずかに違っていて、考察が盛り上がっているよね。個人的にもひぐらしは十代の頃に大きな影響を受けた作品のひとつだから、今の盛り上がりは嬉しく思うよ。

「そういや、よくわからんドラマCDとかも持ってたよな」

もったいなくて開封してないけどね。

他にも、猫でも知ってそうなアニメがたくさんだよ。ゴールデンカムイ、ご注文はうさぎですか?、呪術廻戦、魔法科高校の劣等生、ダイの大冒険…まだまだ有名どころがある。
なんだかんだアニメを積極的に追わなくなって一年以上経ってるけど、そんな僕でも久々にどっぷり浸かりたいなと思わされるラインナップだった。

そういえば、久々にアニメを見ていて気付いたことがある。

「なんだ」

オープニングやエンディングの動画を、公式サイドがYouTubeで公開するのが一般的になっていたんだ。
僕はアニメの主題歌を気に入ると、繰り返し聴いたり映像を楽んだりするために検索をかける。でも数年前までは、公式は滅多に動画を上げてなかった。YouTubeはカラオケ動画ばかりだったし。うんざりさせられたもんだよ。ほんと、いい世の中になった。

TVアニメ『体操ザムライ』エンディング・ムービー

「アニメっぽくない選曲だな」

そうだね。普段アニメを見ない人でも洒落てると思える映像だと思う。
いまどきのアニメからは、なんというか、「感性の世代交代」みたいなものを感じるようになった。いろんな部分が、すこしずつフレッシュだ。歌っている人も、どうやら新人らしい。

TVアニメ『呪術廻戦』ノンクレジットEDムービー/EDテーマ:ALI「LOST IN PARADISE feat. AKLO」

「なんとなくだが、さっきのと似たテイストに感じるな」

だろ?
似るってことはつまり、作ってる側の世代が同じだからだと思うんだよ。同じだから、作りたいものの感覚も近い。
もちろん、「流行りを敏感にとらえようとした結果、似たカラーになる」というシンプルな理由もあるだろうね。でもそれだって、「流行りを敏感にとらえよう」って発想をするとことか、流行りの参照元の見つけ方なんかが近いからこそ起こったコラージュなわけで、やっぱり「感覚が近い」「世代が近い」ことの証明じゃないかな。

このことが、僕はうれしいんだ。
コロナ禍によって業界が疲弊して、一時は心配したけれど、こうやってたくさんの映像表現をまた見られた上に、作り手側の新しい感性まで感じられた。アニメがこの苦境でちゃんと存続している。そのことを純粋にうれしく思う。

「フン。まあ、仕事に支障をきたさない程度に楽しむんだぞ・・・おっと、さっそく仕事だ。玄関で呼び鈴を鳴らしてるやつに応答して来い」

僕は呼び鈴が何回鳴らされているか尋ねた。

「二回だ」

僕はため息をついて、玄関へ向かうべく立ち上がった。

神西亜樹

神西亜樹小説家・シナリオライター

投稿者の過去記事

2014年、『第一回 新潮nex大賞』大賞受賞。新潮文庫nexよりデビュー。
最新作『東京タワー・レストラン』発売中。
ショートシナリオや劇場用映画脚本協力等も担当、シナリオメイキングに幅広く携わる。
昔はボーカロイドで楽曲を制作しており、作詞から挿絵、動画まですべて自作していた。音楽は今でも愛好。
ユーモラスで優しい話が好き。

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