アレ。外、見てみてよ。
「・・・クリスマスのライトアップか。なんだかんだ、今年もつくんだな」
人を集めるためのライトアップなのに、今年は人が集まらないように工夫されてたりする。チグハグな世の中になってしまったものだ。
急だけど、偏見はよくないという話をしてもいいかな。
ほぼ自分語りなんだけど。
「自分語り!?」
ジジノスケが飛び上がる。猫としての体躯を活かした、気持ちのいい飛び上がりっぷりだった。さすがに驚きすぎじゃないか、と僕は思った。
「いいぞ! 話せ!」
今度は前のめりになっている猫を前に、僕は眉を曲げる。
20140219_分島花音_signal_MUSIC VIDEO試聴
まあ、いいや。
僕は分類的には、なろう作家だろ?
特に文字の読み書きに執着してこなかった音楽家志望が、鬱屈とした気分を別ジャンルで晴らそうと、気分転換でネットに投稿したショート・ショートが、なぜか新潮社の人の目に留まって作家になったわけだけど・・・
「まあ、その話自体がなろう小説っぽいけどな」
いやまあ、そうだけど。これはジジノスケも知っての通り事実ね。
そういうことじゃなくて、僕がたまたま何の知識もなく投稿したサイトが、小説家になろう、だったから、自動的に僕はなろう作家に分類されてしまったって話。
「そうだな。その認識に齟齬はない。俺の知ってる過程と同じだ」
自分でも意図しないうちに「なろう作家」なる肩書き・・・というか、もう、十字架を背負ってたわけだよ。
これが、僕はけっこう嫌だった。なろう作家って言葉は、基本的には嘲笑の意味で使われるからね。
「ふむ」
だから、なろう作家っぽい話、というものにも、また抵抗を感じていた。一緒にされたくない、という思い上がりからね。異世界転生や「おれつえー」と呼ばれる代表的なジャンルにはあまり近づかないようにしていたもんだ。
「有名どころで言うと・・・」
こら、角が立つだろ。
でも、いろいろ齧っていくうちに、このジャンルにも偉大だと思える作品はあるんだなと思えるようになっていったんだ。好きな作品もできた。オーバーロードとか、ゲートとか。最近読んだものだと、戦国小町苦労譚は確かな知識に裏付けされた作品で、読んでいてすごいと思わされたかな。農業大好き女子高生が信長の家来になるやつ。
そう。よく見てみると、なろう系というのは異世界転生というガワを被った「知識もの」もけっこう多い。仮想の薬屋とか、異世界料理なんてジャンルもあるね。
こういう専門的な知識を持った作家たちって、自分の知識を使う場を求めてたんだと思うんだ。異世界転生とか俺つえーとかいうのは、あくまでその知識を落とし込むための器で、さらに言えば、小説家になろうというサイトだって、器を乗せる受け皿に過ぎない。
みんな、なろう作家という肩書きを利用しているに過ぎない。『人を集めるためのライトアップ』さ。そこを、偏見によって掃き違えてはいけないなと改めて思った次第だよ。
20150429_分島花音_「RIGHT LIGHT RISE」MV試聴
「なろう系といえば、今クールもいくつか有名なのがやってるよな」
そうそう。僕は魔法科高校の劣等生をはじめて見た。学園ものかと思ってたけど違うんだね。軍事戦略ものを、SFフレーバーで派手に装飾して、十代のキャストで書きたいように書いた物語って感じだった。ラノベにありがちなハーレム展開もなく、主人公を持ち上げるために用意されるザコもおらず、結構淡々と進行していく。意外だ。例の「お兄様」も特に鼻につかなかったし、むしろ好きなキャラ造形だと思った。やはり偏見で作品と距離をとるのはよくないね。
「・・・あまり、想定外の情報はなかったな」
何の話?
「いや、気にするな。こちらの話だ。今後も自分の話をしたいときはする方がいいぞ。精神衛生的にな」
僕は肩をすくめた。そんなペラペラ話すタイプじゃないから、作家になったんだろうに。
「玄関で呼び鈴を鳴らしてるやつがいる」
僕は呼び鈴が何回鳴らされているか尋ねた。
「二回だ」
しかたない。僕は玄関へ向かうべく立ち上がった。