Shugo Tokumaru (トクマルシューゴ) – Hora (Official Music Video)
「おい、玄関で呼び鈴を鳴らしてるやつがいるぞ」
僕はジジノスケに、呼び鈴が何回鳴らされているか尋ねた。
「さあな。何回か」
仕方なく僕は立ち上がった。
玄関へ向かいながら、ジジノスケが応対してくれたら楽なのにな、と僕は思った。我が家で呼び鈴に先に気づくのは、どういうわけか決まってジジノスケなんだ。だったら彼が玄関から顔を出して、来客とやりとりしてくれたら僕は随分楽できる。宅配便を受け取ってお辞儀をしたり、近所の大学生が持ってくる仕送り大根のおすそ分けに驚いてみせたり、怪しげなセールスマンの額に油性マジックで『邪悪』と書いたり、そういうことをしてくれたらいいのに。でもそれって無理な相談だよね。だってジジノスケは猫なんだから。玄関口での応対は、猫にはちょっとだけハードルが高い。あいみょんが言うところの、『ドアノブの高さがちょっと心を揺さぶりすぎる』んだ。
「誰だった?」とジジノスケが言った。クッションの上に丸まっている。
ウーバーイーツさ。
「お前、最近その手のサービス頼みすぎじゃないか?」
だって、楽だし。値は張るけど、僕は小食なので、一食買えば二食分になるし。コロナ禍を踏まえればこういう選択はアリだと思う。デスストランディング的な世界観にも浸れるしね。
「あのゲームの先見性はすごかったな」
まさに、と僕は思った。いつの間にか現実がゲームに侵食されてしまって、僕らはデスストランディングの世界で生きている。サム・ポーター・ブリッジズに日々感謝だよ。
「で、今日の飯は?」
フォアグラ。
「フォ、フォアグラ!?」
ほら、誕生日だろ。なのでお祝い代わりになりそうなものを探してみたんだ。
「ああ、なるほど・・・にしても、いまどきはフォアグラなんてのも頼めるのか」
あくまで『ちょっとしたフォアグラ』だろうけどね。人生でフォアグラを食べるのなんてこれで二度目だし、ちゃんとしたフォアグラがどんなものかに確信はないけどさ。
やっぱり宅配できる高級料理って限界があるっぽいよ。鮮度とかあるから。
「まあな。海鮮系とかは難しそうだ。あとは、冷めたらまずいもの」
蕎麦も時間が経つと食べられたもんじゃなくなってしまうからね。食事宅配は『なんでも頼める』けど『なんでも美味しく食べられる』わけじゃない。まあ、この辺の見極めは経験が必要になるよ。
「それ、偉そうに語ることか?」
じゃあ、さっそく食べてみようか。『ちょっとしたフォアグラ』を。いただきます。
「どうだ?」
ううん、そうだな。肉としては食感が独特・・・というか、フォアグラって肉なんだっけ?
まず、プチプチっと薄皮が千切れていく感覚がある。よくわからないけど、どうやらフォアグラは薄い筋繊維みたいなものに包まれていて、中身は生のレバーみたいな舌触りをしている。
「なんだか、食レポとしてはあまりよくない表現な気がするが」
別にいいだろ。小説じゃないんだから。
中に入っているものは、なんだか生焼けっぽい感じで、ドロッとしていて、かなり脂っぽいね。ワインが合うと思う。口をさっぱりさせながら、順番に食べる料理って感じだ。そういう意味でも高級料理という枠に当てはめやすいのかもしれないね。
「俺がききたいのはそういうことじゃない。うまいのかどうかだよ」
強いて言うなら・・・
Justin Bieber – Yummy (Lyric Video)
「ジャスティン・ビーバーをオチみたいに使うな」とジジノスケがうなった。
実際、ヤミーだよ。でも『高い=涙が出るほど美味い』というわけでもないってことを教えてくれる料理でもあるね。あくまで世界三大『珍味』だってことを忘れちゃいけない。そうじゃないと、フォアグラにいらぬプレッシャーを与えてしまう。
「ま、結局は柔らかくて濃い味付けの肉が一番美味いもんな。飯ってのはそういうもんだ」
そういうこと。
「また玄関で呼び鈴を鳴らしてるやつがいるぞ」
今度は何回だい、と僕は尋ねた。
「二回だ」
しかたない。僕は玄関へ向かうべく再び立ち上がった。