PEOPLE 1 “アイワナビーフリー” (Official Video)
「いい曲だな」と猫のジジノスケが言った。
たとえ人のために作られた曲だろうと、猫だって楽しめむことが許されている。音楽の良いところのひとつだなと思う。猫に限らず、植物も音楽で好き勝手に元気になるときくし、なんなら、人間もだ。「これは明らかに特定の人に向けて作られた曲だ」とわかっても、いや、大抵の曲はきっとそうなんじゃないかとうすうす気づいていても、僕らは音楽を自分ごととして自由に楽しむことができる。
曲もいいんだけどさ、と僕が言った。
アニメーションが歩いているところがいい。
「アニメーションが歩いているところ?」
何言ってんだ、という目で猫が見てくる。ジジノスケには僕の楽しみ方についてももうすこし熱心に勉強してもらいたい。
歩くアニメって単純で、カンタンのように思えるけど、めちゃくちゃ難しいんだぜ。
「そういえばお前も簡単なアニメーションを書いていた時期があったな」
ちょっとした髪の揺れや、まばたきなんかだけどね。歩くアニメも書いたことがある。僕はてっきり、下半身だけ動かせばそれっぽくなるのかなと思った。でも大きな間違いで、出来上がったアニメーションは時計の振り子みたいに奇妙に下半分を動かすだけで、とても歩いているようには見えなかった。
人が歩くとき、頭の高さは変わるって知ってたかい?
「猫もか?」
猫は知らない。
だからさ、僕は綺麗に歩いているアニメーションが好きなんだ。このMVは、きっと実際のモデルをスマホの動画で撮って、それを一枚ずつ分解して書き起こしたんだろうけど、すごく自然な人間の動きだ。
「まあ、綺麗なことには同意するよ。漫画的表現や間奏で入るアクセントも絶妙」
衣装もいいよね。パーカーとスニーカーに網タイツというのがロックだなと思う。
この人たちは他にもアニメMVを上げていてね。たとえばこれ。
PEOPLE 1 “常夜燈” (Official Video)
衣装もカラーも影の動きもとてもいいが、やはり特筆すべきは、「スマホで撮ったような表現」だ。この表現、僕らの時代にはなかったんだよ。
「そうだっけか?」
TikTokが流行ったことで、またツイッターの動画機能が拡張されていったことで、スマホムービーの共有というのは一般的になった。でも、ニコニコ動画のボカロ全盛期だった時代には、そのどちらもなかったんだ。
だからこの動画を見た時、「ああ、時代が動いている」と僕は思った。
おそらく、良い方にね。
「しかし、いったいアニメーションMVのクオリティはどこまで上がるんだろうな」
本当だな、と僕は思った。僕らの時代のアニメーションMVでは、もはや太刀打ちできない。クリエイターの分業化が進んだ結果で、これもまた良いことだとは思うけど・・・。
「おっと、お客さんだ。玄関で呼び鈴を鳴らしてるやつがいるぞ」
今度は何回だい、と僕は尋ねた。
「二回だ」
しかたない。この話はまた次回だ。僕は玄関へ向かうべく再び立ち上がった。
PEOPLE 1 “フロップニク” (Official Video)