神西亜樹「透明な林檎」 Vol.24 – 立場と見方

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LUCKY TAPES – Trouble (Official Lyric Video) [short ver.]

「小説と歌詞、それぞれ組み立て方が違うなら」とジジノスケが言った。

先ほどの話の続きらしい。
あれ? 先ほど、とはいつだったっけ。
昨日? それとももっと前だったか。

「透明な林檎というタイトルだって、名付けた立場によってニュアンスが変わってくるってことだよな?」

・・・つまり、僕が小説家として名付けたか、作詞家として名付けたかって話かい?
そもそも、僕はこの「透明な林檎」というタイトルをつけた記憶がないわけだけど。だからこそ、なんでこんなタイトルになっているか探ってみようって、僕らはずっと検討してきたんだったよね。

「そうだ。だから、この話題も『なぜ』を突き止めるヒントになるかもしれないだろ? どうなんだ? 意味は変わるのか?」

そりゃ変わるだろう。
まず、小説のタイトルであるならば、物語全体に通底する重要なワードであると同時に、伏線だと勘づかれないような塩梅が望ましい。ついでに言えば、作中で文言自体を登場させたい。主人公のセリフとして登場させられたらベターだな、と思う。
改めて考えてみると、小説のタイトルというのは、土台であると同時にある種のキメ台詞と言えるかもしれないな。

「じゃあ、歌詞のタイトルなら?」

そうだな・・・歌詞の方が自由な扱いになるかな。サビから引用してもいいし、連想ゲームみたいに隠してもいい。アルバムの他の収録曲との兼ね合いで替えたりもできるくらい、自由なメッセージだと感じる。
デコレーションというのが近いかもしれない。ケーキの最後に乗せるイチゴみたいなさ。

「土台と装飾、セリフとメッセージねえ」

もちろん、全てがそう区分できるわけじゃないよ?
それに重ねて言うけど、透明な林檎がそのどちらなのか、あるいはどちらでもないのかは僕にはわからないよ。残念ながらね。

「まったく、言葉ってのは厄介だな」

まったくだ。たった一文字違うだけで、まったく違う意味合いになってしまう。
カナなのか、かななのか、あるいは日本語で表記されたこと自体にも理由があるのかもしれない。
たとえば透明の代わりにCLEARという言葉をあてがったとする。英語表記にして、フォントや音の響きを変えることによって、より透明感を強調しようと考えたと仮定してほしい。でもクリアという単語は「明らか」とか「澄んだ」とか「通過」とか、他にも色々なニュアンスが含まれるから、英語にしたことでむしろ「透明」が曇ってしまうかもしれないよね。

LUCKY TAPES – BLUE feat. kojikoji [Official Music Video]

このBLUEってタイトルも、大量のニュアンスを含む。幸い、歌詞の中に答えは示されているけどさ。色、空、海、温度、青春、気分のことだって表すのが「青」だ。さらにそれが英語表記になってすらいる。

「もうわかったよ。推測に現界があるってことは」

透明な林檎がいったい何なのかなんて、名付けた本人に訊いてみないと結局わからないんじゃないかな。

「だから、お前が名付けたんだって」

やれやれ、と僕は肩をすくめる。

「おっと、呼び鈴が鳴らされた」

何回だい、と僕は尋ねた。

「二回だ」

これ以上話しても答えは見つかりそうにない。僕はこれ幸いと会話を切り上げ、玄関へ向かうべく立ち上がった。

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神西亜樹小説家・シナリオライター

投稿者の過去記事

2014年、『第一回 新潮nex大賞』大賞受賞。新潮文庫nexよりデビュー。
最新作『東京タワー・レストラン』発売中。
ショートシナリオや劇場用映画脚本協力等も担当、シナリオメイキングに幅広く携わる。
昔はボーカロイドで楽曲を制作しており、作詞から挿絵、動画まですべて自作していた。音楽は今でも愛好。
ユーモラスで優しい話が好き。

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