[Live Report] 須田景凪 – 2019年4月7日「TOUR 2019 “teeter”」@EBISU LIQUIDROOM

SOLD OUT公演だけあって会場は超満員。人の熱気が凄まじい。ここにいる人は大抵が同一のものが好きで(興味があって)、これから行われる演奏を今か今かと待ちわびている。大勢の人間が皆、同じ方向を見て、身体を動かし、心を動かす経験なんて、普通に生きていたらまず味わうことはできない。ある意味で異常な空間で、多分、興味のない人から見たら私たちは奇妙で、理解できないものなのだと、わかっている。それでも知らなかったことにはできない。お金を払って、時間を無理矢理に捻出してでも、この場に足を運びたくなってしまう。こんなのはもはや病だ。それでいてとびっきりハッピーにしてくれる魔法だ。

前回の渋谷WWW Xでの公演も観に行っていたけれど、その頃から比べても世間から向けられる注目がどんどんと増している須田景凪。そんな彼が行うライブ「teeter」は以前と比べ一体どんな変化を遂げているのか。今の彼はこの舞台でどんな世界を見せてくれるのか、すごく楽しみである。

そうこうしているうち、多分開演の時間を5分かそこらオーバーしたくらいに会場はふっと暗転。舞台上のスクリーンにいろんな大きさの白い輪っかがいくつも浮かんでは消えていく。そのうちその輪の間を縫って「teeter」の文字がふと現れ、その輪郭がぼやけたり、にじんだりをいくつか繰り返したのちに、 バンドのメンバーがそれぞれの位置へ着く。揺らぐ空気。観客は主役の到着に息を飲む。人の熱でぬるまった温度をぬるりとかき分け、彼はその場所に立った。 ライブはスタートする。「よろしく」と声が聞こえたような気がするかしないかのうち、会場からはどこからともなく拍手がおこっていた。劇的になにかが切り替わるでもなく、非日常の、ライブ、「須田景凪 TOUR 2019 “teeter”」はゆるりとはじまった。

1曲目は新EP収録の「farce」。目に痛いような光と耳に刺さるリアルな振動が、ようやく身体を通してはじまりを実感させる。茶番。そんな意味を持つこの歌をのっけから演奏してしまうのだから、なんとも小憎い。どうしたってわくわくしてしまう。それ以上に「どうしようもないくらいに愛に会いにいくんでしょう そんなモノローグを許してね」の歌詞がまさに今、この瞬間にドンピシャすぎて完全にノックアウト。もはや最高のライブになることを確信してしまうような走り出し。

2曲目には「街灯劇」が続き、真っ暗な中にちらちらと白熱電球のような黄色い灯がともっていく。ゆらりとメンバーの姿が確認できるようになったくらいで、会場は花開くようにピンクと紫の光に包まれた。普段より数段荒っぽいような歌い方もここでしか聴くことのできない特別感があって楽しい。歌の締めくくりにはまたはじまりのときに灯っていた電球が2つだけ光って、演奏する彼と聴きに来ている私たち「彼」と「個」なのかな、なんて少し思った。

いきなり攻撃的なまでに赤、赤、赤。狂ったみたいに赤のライト。3曲目は「idid」のお出ましだ。走るようなピアノの音が、どうしてか気持ちを急き立てる。前に。前に。気持ちがつんのめる。須田自身も演奏中煽るように顔の横で空を掴むように手を動かす。そんなの盛り上がらないわけがない。3回”ポンポンポン”と連続で手を叩く箇所が、この歌の中には何回か出てくるが、その度にそのリズムに合わせて白い光が瞬く演出。より一層会場を湧かしていく。

お次は、先ほどの赤とは対照的に青の世界からスタート。まるで水の中みたいなんて思った途端「ふらり 街の渦を泳いでは」と須田が歌い出す。4曲目「鳥曇り」だ。水の中、水面に移された世界が「逆さに映」ったように、今度は赤く染まる舞台上。歌詞に合わせて青と赤に移り変わる、2色で構成された世界が、表と裏、表裏一体のこの曲の歌詞みたいで、魅せ方があまりに綺麗で惹きつけられる。「それが 嗚呼 大好きでした」とラスサビで歌い上げる彼は赤と青の混ざった紫に、怪しく照らされていて、ひどく象徴的だなと思った。

歌が終わった途端しんとなる会場。静寂の中、須田が「めちゃめちゃ静かですけども」と少し困ったように声を上げた。続けて「たくさん…こんなにたくさんいるんですね。楽しい日にしましょう」と会場に優しく笑ってそう告げた。

軽いMC後の5曲目。「Cambell」地響きのようなドラムが鳴ったかと思うと、聞き覚えのある雨音がする。それと同じタイミングで、滴る雨のような映像が会場中を優しく濡らしていた。その光は舞台の上だけではなく、観客にも等しく降り注ぐ。この光の動き方が、滴っていくリズムがさながらもう1つのMVの形なのではないか、と会場の上にぶら下がる照明を見ながらそんなことを思った。サビの時だけ須田景凪に当たるスポットライトが、いつもは平等に降っている雨の、そうじゃない、特別感、作られた、演劇感が匂い立つようだった。

6曲目が「シックハウス」。ここで額縁が、その中に揺れる花束が、スクリーン上の左右に映し出される。(「teeter」のジャケットを飾る、このアルバムを聴いていた人ならすぐにわかるであろう、おなじみの奴)。時同じくして、須田はギターを下ろし、スタンドマイクに向かってとつとつと歌い始める。リズムに合わせてゆらゆらと動くそれが、さながらメトロノームのようでもあると思った。ラスサビでその花束は、黒く焼け焦げた影のような姿で現れる。「ねえ 尚更に霞みゆくばかりだ」の言葉通りに輪郭が赤く染まっていく。光の中に広がって、彼が溶け消えていくのではないか、なんて。そんな焦燥感と不思議な高ぶりを覚えてしまう、歌い終わり。

7曲目「レソロジカ」は先ほどまでの物語の続きである。前曲と同じ額縁、同じ花束を、知らない誰かが片手にぶら下げ、ただただ歩いている。そいつは真っ黒で、胸から上は見えない。そいつが映ったり、映らなかったり、片方だけになったり、いろんな見せ方をしてくる。降り注ぐ光は青からだんだん薄い水色の層になっていて、舞台全体を照らしたかと思えば、歌う須田自身だけにスポットライトのような光が向けられたりもする。光の使い方が特に印象的な楽曲で、どこかに堕ちこんでわからなくなるような、惑うような彼の声がライブではより一層魅惑的だ。

8曲目「morph」。アルバムのイントロと同じ、どこか懐かしいような雑音。何かが飛ぶような、走るようなザーッという音声が会場中を包む。なんの音か定かではないのだけれど、私はこの音をずっと昔から知っているような気がする。知っているはずもないのに。どうしてか分からないけれど、ひどく懐かしい。緩く続く演奏のみのパートが優しく不思議な盛り上がりを作り出していく。そうして、訪れるサビ。青と黄色で構成された2色の丸い光が、チカチカと光っている。

そうして、1度会場が明るくなる。その中で上がる「カッコイイよー」という声。つられてか、同じ言葉がいくつか続いた。「ありがとうございます」そう言った後に、須田は「そうしか言えないですけども」と、恥ずかしそうに笑う。「楽しんでますか?」1度私たちに問いかけたあと「話は変わるのだけれど、1、2年ほど前、好きなアーティストのライブをこの場所で見て、とんでもないものを見たという衝撃を受けて。それ以来、ここでやるのが怖くてしょうがなかったんですけど、今すごく楽しいです。これからおそらくうるさい曲が続くので、テンション高めにいきましょう」そんなこんなで、後半戦、終わりに向かってより激しいライブがはじまっていく。

9曲目「Dolly」。MVで見たままのモノクロの街並みがスクリーンには映し出されている。音楽に合わせて流れていく、並んだ黒い扉も、くすんだ赤いバラもそのままで、映像の世界がそのまま現実化したような錯覚を覚える。歌が進行するにつれて、バラは色を失い、逆さまになって、映像は揺らぎ、まるで正常に映らなくなったテレビみたいである。それが今まさに目の前で起こっているから、この現実世界がおかしくなっていくかのような危うさを孕んだ楽曲に仕上がっていた。

10曲目「mock」も、スクリーンには見慣れたMVが映し出されていた。延々と続く横断歩道を、長い髪の誰かが1人で渡っている。画面の左端では、白いカーテンが風になびいて揺らいでいた。そうやって、一歩一歩進むように盛り上がってゆき、サビでその感情は爆発する。「君を連れ去ってしまいたいと思ったんだ」そう須田が叫ぶのに合わせて、映像が左から右に大きく流れていく。僕が彼女の手を引いて、走っていくみたいに。その中にある赤いリボンが、2人の感情みたいでチリチリと激しく目に焼きついて消えない。

11曲目「レド」は、全体を通して色の暴力みたいな楽曲だった。赤と青、黄と紫、他にもいろんな色がぐちゃぐちゃになって会場中を縦横無尽に照らし出していた。須田景凪自身も、そんな混沌みたいな世界を熱っぽい声で歌い上げる。もはやその空間は止められない。その疾走感が気持ちいい。

あまりに盛り上がりすぎた前の高ぶりを収めるように、5秒くらいの間があって、須田が「みんなが知ってる曲なので、知っていたら歌ってください」とそう言ってまた10秒くらい演奏のみの時間が続く。そうして、あまりにも有名な12曲目「シャルル」が始まった。上がる歓声、煽るようなベースの音。この日1番の盛り上がりを見せる。だからこそ、だろうか。小細工なしのライブらしいライトの演出。Cメロでは、深夜番組みたいな気だるさをどこか湛えていて、まるでラスサビに備えているかのようだった。そうして、それら全て・ここまでの感情を解放するかのように、激しい叩きつけるみたいな終わり。ライブで何度も演奏しているからなのか、圧巻の仕上がりであった。

盛り上がった勢いは止められない。そのテンションのまま、青、赤、黄の光が激しく点滅する。古い壊れたゲームセンターみたいだと、そんなことを思った。Aメロは、緑と青のライトになって、どこかレトロチックでアングラチックな雰囲気。合間で赤や緑、それにピンクの光に移り変わる。もちろん、サビはおかしくなったみたい、ぐちゃぐちゃな3色の点滅。「楽だろうか」須田の顔がふっと照らされる演出が最高に格好いい。この世界はどこか昔のおもちゃ箱みたいでもあって、子供の癇癪と、大人になってしまった諦めが一緒くたになってもみくちゃになったような曲だなと思った。13曲目「ポリアンナ」。

14曲目「パレイドリア」。1度リセットするかのように暗くなる。かと思えば、またカラフルになる。でも、先ほどとは違ってけばけばしさや攻撃性はなく、ピンクとか黄色とか、水色みたいな、どちらかといえば絵の具をぶちまけたパレットの上みたいだった。

「次がラストの曲になりました」。会場からはもちろん「えー」だの「早いー」だの、お決まりの文句が端々から上がる。少しの間の後、「そんなこと言って、みんな実際8時間やったら怒るんでしょ?」といたずらっぽく笑いながら言った。「いろんなインタビューを受けていると、どんなアーティストになりたいか、とか、どんな野望をお持ちですか、とか聞かれる機会が多いんです。。それに対して、昔からバカほど売れたいとか、バカほどデカイところで(ライブが)やりたいとか、そういうのではなくじゃあ一体どういうことなのか、改めて自問自答したんだけれど…ごめん、一旦お水飲んでいいですか?」と一時小休止。「うん、水がおいしいんですけど(笑)…何話してたっけ?そうだ、友達や家族、学校の友達、あるいは会社の同僚、飲み会のコミュニティなのか、、その中で、僕の音楽をコミュニケーションのツールとして使って欲しいと考えていて。ここに来ている人が家に帰って、須田ってやつのライブに行ってきたんだが、って話をしたときに、ピンとこない人もいるというのが申し訳なくて。周りとの共通言語になりたいと僕は思っているのでそのために、いいライブをして、いい曲を書いて、もっと徳を積みたいと思います。これからもよろしくお願いします」

そう言って始まった15曲目「浮花」。真っ黒いスクリーンに白いカーテン。まさに先ほどのMCをそのまま歌にしたようだなと思った。「世界が終わる頃に ふたりが笑っていますように」彼の歌が私たちの生活の中に当たり前みたいな顔をして寄り添ってくれている。そんな未来が予想できるような優しい締めくくり。サビの光の演出が、左右に伸びる黄色い光の帯が須田から伸びる羽みたいだなと思った。これは、誰かの、ではなく、ひとりひとりにとって、大切な思い出になるような、そんな特別なライブになることだろう、と思った。

さて、3分ほど「アンコール」のコールが続いた後、ツアータオルを持ってメンバーが再登場。ひとりひとり、メンバー紹介。モリシー(G/Awesome City Club)、雲丹亀卓人(Ba/Sawagi)、矢尾拓也(Dr/ex.パスピエ)錚々たる顔ぶれ。観客に「ボーカルはー?」と尋ねられ、「ボーカルが須田じゃない場合は、逆に誰ですか?」と突っ込んだ。「アンコールありがとう。残り数曲、やらせてもらいます」。

アンコール1曲目「メーベル」。バルーン名義で発表したこの楽曲を彼自身が歌い上げた。ピンク、水色、黄色、シャボン玉みたいな淡い配色のサビが記憶に残る。

「終わってしまうねえ。7月に追加公演はあるんだけれど、空いてしまうから寂しいなと思うし。終わってしまうのは寂しいなと。」ここで「8時間するの楽しみ」の声。「8時間やったら、みなさんの親に何か言われるじゃないですか(笑)。それの責任は取れないですからね。それでは、ありがとうございました」そう言って、最後の1曲がついに始まる。

2曲目「密」。しっとり、今まで見ていた夢から目を覚ますように、だんだんと朝を迎えるように、このライブが終わっていく。歌が進むにつれて、だんだんと彼の顔が見えなくなってゆく。ぼかすような、揺らすような、曖昧にするみたいな。淡い光に消えていくみたいに、彼が夢の中に戻っていくみたいだった。そうして、歌は終わる。終わった後に、明かりが点いて、彼は「ありがとうございました」と告げ、私たちに頭を何回も下げた後、舞台の袖の方に消えていった。これにて、終幕。長かった夢が終わり、現実の世界がまた始まる。

今回は、とてもライブらしいライブだったと思う。箱のサイズもそうだったし、光の演出も、彼の歌い方も、まさにライブだった。だからこそ、もっと箱が大きくなった時、人が増えた時、彼がもっとやりたいことにチャレンジできるようになった時、彼のライブがどうなってしまうのか。とても楽しみだなと私は思った。まだまだ彼から目が離せない。次のライブも楽しみである。

【セットリスト】
1.farce
2.街灯劇
3.idid
4.鳥曇り
5.Cambell
6.シックハウス
7.レソロジカ
8.morph
9.Dolly
10.mock
11.レド
12.シャルル
13.ポリアンナ
14.パレイドリア
15.浮花

アンコール
1.メーベル
2.密

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2019年4月7日 ebisu LIQUIDROOM
須田景凪 TOUR 2019 “teeter”

尾方里菜

尾方里菜デザイナー・ライター

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表現することが好きな、どこにでもいる普通の人。思い立ったらなんでもやりたい。我慢できない性質(たち)。
現在はデザイナーとして修行しつつ、このメディアでライターも経験させていただいております。
趣味は写真を撮ることと絵を描くこと。好きな言葉は「鳩だって死ぬところを見るまで不死身だ」よろしくどうぞ。

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