[Staff Recommend] ずっと真夜中でいいのに。 – 「今は今で誓いは笑みで」レビュー

初回生産限定盤

恥ずかしながら「ずっと真夜中でいいのに。」というバンドがあるのは知っていたけれど、だんだんとその盛り上がりが強まっていたことは知っていたけれど、何となくずっと聴かずにいた。そんな折にこのレビューのお話をいただき、気にはなっていたから良い機会だと思い、これを書くことにした。既にリリースされている曲から勉強していったのだけれど、一瞬で夢中になった。それはもうあっという間に。

この文章を読んでいる人はほとんどが既に「ずっと真夜中でいいのに。」を好きな人なのかもしれないから、その先輩ファンには「ついに良さがわかったのか」って感じだと思うのだけれど。その一方で気になっているけれど、なんとなく聴いていない勢の方々は、ぜひそのはじめの1歩の後押しにこの文章が繋がったら幸いである。

さてそんなこんなで新アルバム「今は今で誓いは笑みで」のレビューをはじめていこう。美しい魔道書みたいなアルバムジャケットの中には、魅惑的な楽曲たちが全部で6曲、記されている。魔法使えそうだね。

1曲目 勘冴えて悔しいわ
爽やかなピアノとACAねのハミングからはじまる音楽。アルバムの開幕1曲にふさわしく疾走感のある、いやそれでは言葉が足りないかもしれない。前のめって、つんのめる一歩手前。それくらい前へ前へ突き進んでいくみたいに進行していく。

「後戻りは しなくていいの 今のところは 帰って眠るだけ」

次第に感情が高ぶっていくみたいに甲高く、喚くみたいになっていくピアノの音が、不協和音一歩手前でACAねの声を絡まって、どうしてか気持ちのいい音楽になる。魔法の呪文みたい。歌詞のそこここには毒がちらされた、耳障りの良い言葉たちが綺麗に配列されている。

2曲目 正義
既に発表されている正義。もう聴いている人もたくさんいると思う。私も公開済みの動画は何度も視聴したし、Apple Musicでリリースされている音源を繰り返しでずっと聴いていた。はじめて再生ボタンを押したとき、目の前に星が落ちてくるようだと思った。音が弾けて、光っているみたいだ。その光はサビでより一層溢れて、流れ出していく。
なんとなく懐かしいみたいな口笛、と呼ぶには整いすぎているけど、そんな音からこの曲はスタートする。なんとなく昔話をこっそり教えてくれるような歌い出しから、どんどんと歌は輝きを増す。1曲の中にストーリーがあるなんてのは、そんなに珍しいことではないけれど「正義」は聴けば聴くほど、その4分半の中で魅力が増していく。音だけでもそうなのだが、革蝉が作成したアニメーションのMVは空恐ろしいほどの完成度だ。動画中にセリフはないし、詳しいことはなにもわからない。でもどうしてか心揺り動かされる。

「近づいて遠のいて 探り合ってみたんだ
近づいて遠のいて わかり合ってみたんだ
近づいて遠のいて 笑いあってみたんだ
近づいて遠のいて 巡り合っていたんだ 」

曲が終わってもなんどもこの歌詞が頭をかけまわる。本当に怖いくらいの出来栄えの1曲だ。

3曲目 またね幻
ここで少し今までとちょっとトーンの違う曲が入る。沈んだゆるい曲調。こういう言い方が正しいのかわからないけれど、流行りのポップソング的だと感じた。その一方で歌の後ろで、流れる何かの金属がこすれるような、水がしたり落ちるような、袋を破るみたいな、奇妙な音ともつかないなにかが、この曲の厚みを作り出している。

「綺麗事な涌かさで括るけど 
遠回る言葉じゃ時間がないから 
柄にないこと 言わせてよ
想い続ける脆さを込めた
君のためにって 僕のためで 
薄っぺらい歌」

歌の今っぽさと、その裏にある不思議な音がアンバランスで、だからこそ心地よく響く曲。

4曲目 マイノリティ山脈
さっきのそれとは打って変わって、急に不安になるようなイントロからはじまる。聴いていて背筋がぞわりとするような、さらに口の中で転がすような早い口調のACAねの歌い方が一層わけのわからなさを助長する。これは一体なんなのだろうか、何を聴かされているのか。けれども歌の中で次第に熱を帯びる彼女の歌。「ただ 自分になりたいの 一刻も早く」
と言う歌詞が、印象的に響いてくる。

「話さないよ 離せないよ 
見つめ合う時 僕でいられるなら
足りない=繋ぎたい=言葉にしちゃう から 
ありがと、で良かった」

いろんな人が、訳も分からず、何も知らないくせに、口を出してくる今の時代に、自分が自分でいるための曲なのかもしれないとそんなことを思った。

5曲目彷徨い酔い温度
効き馴染みのない楽器からの音色。でも古めかしくどこか神聖さをたたえた、祭囃子とか、なにか儀式のときの音楽に聴こえる。ぽたりと水滴が落ちて、どこか気だるげな、いたずらっぽいACAねの声が歌を紡いでいく。曲名よろしく、酔っ払いのほどけた思考のなかに落とし込まれたのかと思うほど、奇妙な歌詞と音楽による、没入感がすごい。自分が自分ではなく、他のなにかに成り代わって、この祭りに参加している感覚。

「ワニになって 朱鷺になって 
蟹になって 灰になってさ 
完璧が つまらぬようにさ」

あくまでもこの音楽を楽しむためだけの存在になったのか。上がる歓声。太鼓のリズム。たまに聞こえるアクションゲームでビームを出したときのような「チューンチューン」と言う効果音。全部がこの曲を作る要素で、それは聴く人がいてはじめて完成する、不可思議な宴みたいで、あまりにも魅力的だ。

6曲目 眩しいDNAだけ
さて最後の曲もすでにリリース済みで、私も脳みそにMVの印象的な緑の瞳が埋め込まれそうなくらい、繰り返し見てきた。
「ずっと真夜中でいいのに。」の歌詞は日本語的に一般的に使われていない「色が吸えない 味も読めない」とか「物語るために罵るね」みたいな言い回しがこの楽曲だけではなく、数多く使われている。穴抜けした歌詞のなかでも進んでいく物語があって、私たち聴き手は想像力をより一層掻き立てられる。だからこそ音楽に沈み込んでゆく。この世界の中にすっかり入り込んでしまう。この歌はそれがより一層強く、心に響く。

「既製にしたって本心だけ 
誰もわからず乏しい輪奈
分類したって自尊心はもう 
薄暗い朝に委ねるだけ」

ラップみたいな駆け足で歌われるはじまり、今まではなかったそれに戸惑いながらも、聴き進めていけば、そこにあるのはいつもの「ずっと真夜中でいいのに。」の世界だ。変わったことはもうしていない。でも、もう1度聴きたくなる。ずっと聴きたくなる。だからこそラストにふさわしいのかもしれない。そう思わされる1曲。

これら6曲のつまったアルバム「今は今で誓いは笑みで」。どの曲も違った魅力で輝きまくっている。それはもうキラッキラだ。まちがいなくこれからの音楽シーンをになっていく存在になること予感させる素晴らしい出来のアルバムだと感じている。既に知っている方はもちろん、今まで聞いたことのなかった人も、これを機会にぜひ聞いてほしい。本当に損はさせない。それくらい魅力的なのだ。たぶん魔法だと思う。たぶん、きっとね。

ずっと真夜中でいいのに。『正義』MV

ずっと真夜中でいいのに。『眩しいDNAだけ』MV


尾方里菜

尾方里菜デザイナー・ライター

投稿者の過去記事

表現することが好きな、どこにでもいる普通の人。思い立ったらなんでもやりたい。我慢できない性質(たち)。
現在はデザイナーとして修行しつつ、このメディアでライターも経験させていただいております。
趣味は写真を撮ることと絵を描くこと。好きな言葉は「鳩だって死ぬところを見るまで不死身だ」よろしくどうぞ。

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