―はじめに1―
Optimanotes読者の皆さま、はじめまして。神西亜樹です。小説家です。
一応、以前はバンドをやったりボーカロイド曲を作ったりしていた音楽好きなのですが、肩書としては小説家になります。
そんな私が、音楽の集いの場をお借りしてコラムを書かせてもらえることになったわけですが、ではいったい何を書くべきか…
悩みましたが、結論としましては「小説っぽいコラム」を書いていこうと、そのように決めました。いわば「随筆」です。
理由は後述するとして、早速ですがコラム本文の方に入っていきます。あまり固くせず、読みやすく書くことを心がけますので何卒よろしくです。
―本文―
『透明な林檎』とは何だろう。
それに、このイラストは何だ?アナログで書いたイラストを取り込んで、水彩で色をいくつか置いた絵みたいだけど、細部のディテールが甘いように思える。ゴミ取りを手動でやった形跡があるから、不慣れなのが丸出しだ。はずかしい。まるで僕の描いた絵みたいだぞ。
「つまり、お前は『透明な林檎』という自分のコラムのタイトルに心当たりがない?絵についても?そいつはミステリだな」
口を挟んできたこいつは、空想猫のジジノスケだ。黒くて、モップのような見た目をしている。彼の友人はいま足元に転がっている旧型のルンバ。あと僕。
「おい、空想猫なんて言い方をしたら、俺が存在しないもんだと読者に勘違いされるだろう。訂正しろ」
僕は彼の言葉を無視することにした。それに実際の話、生涯なんて空想みたいなものなのだ。僕らはすこしの間だけ夢を見ることを許された神様の嘘にすぎない。
「とりあえず、読者のお前への第一印象は『暗い奴』だろうな」
読者?いったい何のことだ?
「で、神西。『透明な林檎』に心当たりは?」
どうだろう。僕はすこし考えてみた。透明な林檎・・・りんごジュースのことだろうか。
『透明』はわからないけど、林檎のアイテムなら部屋にある。僕はホコリをかぶっていたそれを持ってきて、ジジノスケに見せた。
「これは?」
people in the boxというバンドのキーカバーだ。学生時代によく聴いていたバンドのひとつで、つまり僕の人生を狂わせた巨悪の一角ということになる。
「俺もよく聴くよ。『天使の胃袋』とか『ヨーロッパ』とか」
ジジノスケは猫のくせに良い音楽の趣味をしている。ちなみに僕は『ニムロッド』が好きだ。彼らは、なんというか、清潔な白いシーツの上で人が飛び跳ねたり眠ったりするような音楽を作る。伝わるかな。ガラス細工が地面に落下するまでのスローモーションみたいな曲なんだ。
「そういえば」と猫が言った。「people in the boxのアルバムに『Ghost Apple』ってのがあったろ」
幽霊林檎!
それはたしかに透明な林檎と言えるかもしれない。ここまで似ているとなると、この意味不明タイトルコラムとpeople in the boxが関係しているのは間違いないんじゃないか?
僕は件のバンドグッズが他にもないか、部屋をひっくり返してみた。
あった。僕はそれを抱えて、ジジノスケの前に広げて見せる。
それはブックカバーだった。箱とつながったヘッドホンで音楽を聴く青年が描かれている。青年は箱の中の音楽と共に生きている。まさに「箱の中のひと」というわけだ。
くすんだ青はどんな季節にだって馴染む。良いデザインだと思う。
「・・・お前、いつからそんなに宣伝が上手になったんだ」
宣伝?この猫はさっきから何を言っているんだ。
しかし、渦中のブックカバーがかけられた本。いかにも怪しい。『透明な林檎』の手がかりが挟まってないかと、僕は表紙をめくってみた。
そこには僕のサインのプロトタイプがあった。
突然サインを書かなくてはならなくなって、急いで仕上げたのだ。作家だから縦書きだろうか?と考えたが、友人が横書きのサインを披露してくれたので、僕もそれにならって最後には横書きに落ち着いた。
その翌日、僕はとらドラ!の著者・竹宮ゆゆこ大先生のサインの下に、震えるミミズみたいな線のサインを百回書くことになる。
「おい、玄関で呼び鈴を押してる奴がいるぞ」
猫が僕に報告した。「何回押してる?」と僕が訊くと、「三回」と答える。
どうやら時間が来てしまったようだ。僕は玄関へ向かうべく立ち上がった。
(続)
―はじめに2―
「小説っぽいコラム」を書くと決めた理由としましては、
1.文章で楽しませてなんぼの仕事
2.他のコラムニストの方々との差別化
3.素を出すと恥じらいが出て文章がつまらなくなるタイプ
という考えがあったから。これに
+4.文体を気に入ってもらえれば小説の方も買っていただけるかも…
という私欲も込みで、本日より小説風コラムを月一連載させていただきます。一応、小説という虚構(フィクション)に見せかけつつ、私自身の紹介や、日々の考えなんかを織り交ぜて綴っていけたらという感じです。
よろしければ次回も是非、この場でお会いできたらと思います。神西でした。