[Live Report] 須田景凪 – 2019年7月14日 TOUR 2019 追加公演「teeter」 @中野サンプラザホール

細い雨が東京の街を湿らす。7月。例年より長く続く梅雨の中で、須田景凪のTOUR 2019“teeter”追加公演は行われることと、相成った。追加公演とは言えど、グッズは一新され、このライブに向ける情熱の一端がうかがえる。さらに今回が初のホールライブということで会場はいつもとは少し違う熱に浮かされているようだ。白い靄がかかるホールの中は人の熱気のせいか外にも増してむっとしていた。

18時をいくらか過ぎて観客がソワソワし疲れたころ、照明がふっと落ちる。透明なスクリーン上に光の輪ができては消えていく。それを幾度か繰り返し、輪は大きくなって揺らいで「teeter」の文字の形をとったり、また崩れたり、いろんな様相に変化しながら、キラキラと輝いていた。そうして一通りいろんな形になった後、光は並ぶ額縁と革靴、そうして街並みになった。それらが舞台の中を流れていく。「今日はよろしくお願いします」暗闇から聞こえる静かな声。こうして須田景凪のツアー「teeter」のファイナル公演が、彼の世界はおとぎ話のはじまりのように、幻想的に滑り出した。

1曲目は「Dolly」前回のライブではゆるりと空気が動くように始まっていたような印象だったのだけれど、今回は圧倒的な存在感を放って、音を、エネルギーを、叩きつけるように観客に届けてくる。その一方で演出は黄色やオレンジの光の粒が舞台上に散らばって、幻想的な雰囲気を作り出す。その中で演奏する人間が、幻みたいで、もはやこの世のものではないような空恐ろしさと、音の生々しさのギャップに惹きつけられる。まざまざと前回との違いを魅せつけられる。

2曲目は前回1曲目を務めた「farce」が続いた。舞台上を覆っていた暗闇がやっと照らされ、全体像が露わになる。思ったよりこじんまりとした空間に彼らは存在する。ここから音楽は作られていくことを誇示するような、飾り気のないシンプルでまっすぐな演出に思えた。

息もつかさぬ、あまりにも性急なイントロ。音が爆発する。3曲目「idid」が登場だ。マイクにかぶりつくように須田景凪が歌い上げる。これは間違いなく「ライブ」だと思った。ホールで椅子があって、会場は広くなったけれど、これはライブだ。赤の光が真っ暗な空間を染め上げる。サポートメンバーのGt.モリシー(Awesome City Club)とBa.雲丹亀卓人が中央の須田を挟んで、向かい合い、それぞれ楽器をかき鳴らす。こんなに荒々しく、雄々しい彼の歌い方をはじめてみた。自分の中の衝動を音に託すように、そのままに歌にする彼が、どこか危うさもあるヒリつくような1曲を作り上げている。

「本日はよろしくお願いします」改まった挨拶の後に、4曲目「メーベル」。顔の横で手を結んでから、ほどいて、ときに荒っぽく、ときに艶っぽく。叙情的に歌い上げる。前に後ろに。須田景凪はゆらゆらと進んだり戻ったりする。そんな彼の足元には、雫型の花弁が6つ並んだライトが落とされ、くるくるピンク色に回りながら、舞台上を華やかに照らしだしていた。

5曲目「雨とペトラ」。歌い出しから拍手が巻き起こった。白と黒。モノトーンの世界だからこそ、アップテンポでバンド然とした曲調がより際立って、魅力的に響いてくる。かと思えば、サビでは色が溢れかえる。水色・薄い緑・白。縦横無尽に駆け回るライトがホール中を巡って、観客の盛り上がりをより一層掻き立てるのだった。

「今日、楽しみにしていました。雨の中ありがとう。全員でいい日にできたらなと思うので、最後までよろしく」

しとやかに、ホールの中にも雨が降る。ゆっくりと短冊状のスクリーンが降りてくる。6曲目「Cambell」だ。前回も映像の演出自体はあったのだが、会場が大きくなり、全体が見渡しやすくなったこともあってか、醸し出す雰囲気は、より厳かで幻想的だ。また歌う須田景凪自身は紫の光の膜に包まれているようにも見え、輪郭がぼやけ、歌を歌う影のような存在にも感じられた。ベースの低音がずしりと、体の奥にひたりひたり染み込んでくる。歪むような不協和音一歩手前の音。雨が上がっていくように白い光に舞台上が包まれ、ぷつりと音は止まった。

舞台にかかっていたスクリーンが入れ替えられた。そこに線で描かれたモノクロの花束が額縁の中で揺られる様が映しだされている。7曲目「シックハウス」。とつとつと、淡々と歌われているはずのその曲に、どうしてかこんなにも感情が揺さぶられる。音楽が進むにつれて花束は色を持ち、リアルなものに移り変わっていく。それに呼応するように、声にも感情がより込められて、荒ぶって、高まっていく。その証拠みたいに須田だけが舞台の前に来て、会場中の光を一身に浴び、彼だけの世界を作り上げていた。

先ほどまで5枚あったスクリーンが引き上げられ1枚減り、4枚となった。拍手がまばらに起こった後、8曲目「レソロジカ」がはじまる。7曲目のシックハウスから続き、揺れる花束が映し出された。先ほどと違うのは真っ黒な誰かがそれを運んでいるということなのだが。さて「レソロジカ」とは「lethologica」であり「使いたい言葉が忘れてしまって出てこないこと」である。舞台で歌う彼はときおりしゃがみこむ。なにかを思い出せないみたいに。花束を運ぶ「誰か」もきっとわからなくなってしまったのだろう。使いたい言葉を。

子供の声のようなざわめき、飛行機が飛んでいるみたいな、どこか懐かしい音が会場を包む。9曲目「morph」。会場中は仄暗く点々とあるオレンジの光だけがぼんやりと舞台上を照らしていた。少しずつ音量を増す演奏と徐々に徐々に明るくなるライト。期待が積もっていく。空間に音が張り詰めて、飽和しそうになるその刹那。噎せ返るような光と音の渦に飲まれる。特にDr.堀正輝の圧巻のドラム。明るすぎるせいで目には捉えることのできない、真っ白で輪郭のぼやけた彼らが途方も無い音を生み出している。あまりの振動に、神々しさに鳥肌が立つ。

「弦が切れたんだけれども。みなさん楽しんでいますか?今回ホールでライブをするのは初めてなんだけれども、みんなの顔が見れて楽しいです」

新曲がここで演奏された。10曲目「veil」。TVアニメ「炎炎ノ消防隊」のエンディング主題歌として、すでに発表されていたこの曲がついにライブで初披露である。三角・丸・四角。図形がころころ変わって、リンゴや魚にも姿を変える。音が散らばって、とっちらかった、かと思えば、そしてまた1つに集約するような、目まぐるしい曲だと感じた。ライブ映えする曲だと感じたので是非次も生の演奏を聴きたいものである。

ここで11曲目「mock」いつもより前のめりでテンポの速い、心臓がざわめくような音を感じた。あまりにも力強く、目を惹きつけるドラムを感じる。ぐしゃぐしゃの、木漏れ日みたいなライトとお馴染みのMVが演奏を魅力的な装いに彩っていた。

深海みたいな紺色の中でじんわりとはじまる12曲目「シャルル」。ギターの音が始まったかと思えば、ピンクで溢れる。前回はみんなではしゃぐような印象のあった曲で、確かに有名ということもあって、盛り上がりはしていたけれど、今回はぐっと「自分のものだ」という意思が現れたような歌い方だったように感じている。語りかけるように、歌い上げる歌詞。音の1つ1つが際立って、音楽の厚みがぐっと増した。急に回転する光に花が綺麗だ。荒っぽい演奏にベースの紐は外れるし、それだけ強さを感じる1曲になっていた。

「後半です」の短い声が飛んで13曲目「ポリアンナ」がはじまった。これがこんなにも凶悪な曲にこれが仕上がるなんて思いもしなかった。灰色に緑と赤。アングラで怪しさたっぷり。激しい点滅と手拍子。ライブにこんなに突き刺さる曲があったのか、と驚いてしまうような、強い強い1曲。「嫌気が差す」の官能的な歌い上げ方には思わずクラっとくる。

ここに来てスクリーンが全て降りてくる。ビビットとパステルの真ん中の色。補色の関係にあたる色同士が向かい合って、パキッと塗り分けられて、映し出される。14曲目「パレイドリア」。マリオの無敵モードのような、カラーリングだと思った。音も飛び跳ね、走り出したくなる前のめりな、全体的にゲームを思わせるような演奏。ぱっぱと移り変わる色と、その色に染められて虹のように光る観客の顔。顔。顔。間奏では急に色が抜け落ちたように、白い光が会場をかき混ぜ、迫ってくるのはモードが変わったことを思わせるふう。

15曲目「浮花」花弁の小さな花みたいな光が天井あたりを照らし、舞台上の足元は真っ白なスモークが焚かれ、足元を満たした後、流れ落ち、観客席の方までなだれ込んでいた。その様子はさながら雲海のようで、日常とは違う何か、不思議な環境を形作っていた。

「いろんなことを思い出しながら書いた、思い入れの強い曲です」16曲目「MOIL」。本日2つ目の新曲だ。すっとライトが須田景凪の上に落とされる。複数のライトに囲まれて、引き伸ばされた光の檻の中にとじ込められているふうにも見えた。子供の頃の記憶に囚われているみたい。映画「二ノ国」主題歌ということもあり、舞台には降りてきたスクリーンに映画の様々なシーンがバラバラに映し出されていく。学生である主人公たちの姿が断片的に映っては、切り替わって私たちの目を惹きつける。「大人になった 大人になってしまったみたいだ 左様なら」この歌詞が脳みそでリフレイン。思い入れが詰まっている、と彼が歌う前に告げたように、MOILには渦巻く執念とか、苦しみとか、決して綺麗なだけではないいろんな感情が煮詰まっている。それらが須田景凪の喉を通って、メロディに乗って、曲という形に姿を変え、私たちへ降り注ぐのを感じていた。

さて「アンコール」の声がすこし間延びしはじめたころ、ピンクのツアータオルを頭の上に掲げ、舞台上にメンバーが戻ってくる。「アンコールありがとうございます」言葉少なにはじめられる、アンコール1曲目「レド」。ライブ定番のアップテンポチューンがここに来てかまされる。アンコールに向けられていた期待感が咳を切って溢れ出した。ギラついて、オラついた音がホール中を赤と白のサーチライトと共に駆け回る。自然と体が揺れてしまうリズムが気持ち良い。そんな舞台の中央で背伸びをしながら、体全体を使って音を絞り出すような須田景凪の姿が印象的に映った。

「改めてアンコールありがとうございます。メンバー紹介してもいいですか?」
それに拍手と声で応える会場。
「ギターのモリシー(Awesome City Club)!」
「ドラム、堀正輝!」
「ベースは雲丹亀卓人!」
「なんかね、teeterツアーいつからだっけ?モリシー」
「3月?」
「…そうそう(笑)やっと終わるというか、もう終わってしまうというか。長いような短いような、短いようで長いような…寂しなぁと、でも楽しかった」
「ここでお知らせがあります。今言いますね。………ちょっと先の話になるんだけど、2020年2月29日から初の全国ツアーやります」
湧き上がる歓声。おめでとー!いくねー!の声が騒めいて会場中に広がる。
「こういう反応をしてもらえてよかったです。東京から愛知だったり、北海道だったり、いろいろ行くんですよ。でも本当に先の話だから意気込みとかはまだ本当にないし(笑)」
「人間って3ヶ月あれば、全く別の生き物になると思うんです。いろんなものを咀嚼して、半年後、全く別の生き物が集まると思うんです、僕らも含めて。そのときどんな音楽を持っていくかわからないんですが、そのときに会える音楽を軸に、また一緒に遊んでくれたら嬉しいです。」

そう伝えきるとアンコール2曲目「密」がはじまった。しんみりとした、前回のライブと同じ終わりの曲。それでも格段に音に厚みがあって、聞いていて胸が詰まるようで、苦しくなる。これで終わりなのか。終わってしまうことが、本当に寂しく、それでも華々しさのあるツアー「teeter」の終幕。「僕ら、さよならを誓った 今日も」と歌い上げた後須田景凪が、叫ぶように声をあげているのが印象的なラストだった。

「今日はありがとうございました。須田景凪でした」そういうと顔の前で手を合わせ、ぺこりと頭を下げて会場を後にする。変わらないこの仕草は、会場が広くなっても、有名になっても、変わらないで欲しいと舞台袖に消えていく彼を眺めながらなんとなくそう思った。

初のホール、ということもあり、彼がどんな新しい世界を作るのか、期待と少しばかりの不安が混じる追加公演だったが、そんなことを微塵も感じさせることのない、すごく素敵な時間で空間だった。むしろ会場が大きくなったからこそ、音楽の力で真っ向から向かい合ってくれる、須田景凪の姿をはっきりと感じることができたように思っているほどだ。本当に以前のライブからちょうど3ヶ月あまりだが、別人のような彼だった。アンコールでは続く全国ツアーが発表されたが、今からもう次のライブでまた彼に会いたい。別の生き物になっていく須田景凪の音楽がこれからも楽しみである。

セットリスト

1.Dolly
2.farce
3.idid
4.メーベル
5.雨とペトラ
6.Cambell
7.シックハウス
8.レソロジカ
9.morph
10.veil
11.mock
12.シャルル
13.ポリアンナ
14.パレイドリア
15.浮花
16.MOIL

アンコール
1.レド
2.密

text by 尾方里菜

photo by Taku Fujii

尾方里菜

尾方里菜デザイナー・ライター

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表現することが好きな、どこにでもいる普通の人。思い立ったらなんでもやりたい。我慢できない性質(たち)。
現在はデザイナーとして修行しつつ、このメディアでライターも経験させていただいております。
趣味は写真を撮ることと絵を描くこと。好きな言葉は「鳩だって死ぬところを見るまで不死身だ」よろしくどうぞ。

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