サカナクション – 「834.194」レビュー

サカナクションが約6年ぶりのアルバムをリリースした。 「834.194」という謎めいたタイトルだったが、何かと数字に縁のある自分自身にとっては謎解きするようで楽しみだった。
初めて目にした時は、IPアドレス的な何かで、ライブ会場で面白い仕掛けでもあるのだろうか…と思ったり。実際にはサカナクションの故郷である北海道と、活動の拠点である東京を結ぶ距離だった。
この2枚組のアルバムの間には、ジャンル、音の作り方などから感じ取れる「差」としての距離がありそれは点と点を結ぶ距離の他に現時点から記憶を辿る距離のようにも受け取れた。
また、Vo.山口一郎氏が各所で話す通り、その距離は「東京」と「北海道」、「作為的」と「無作為的」このテーマの奥には、規模は大なり小なり多くのミュージシャン、バンドマン、アーティスト、表現するものが感じる葛藤があるような気がしている。

アルバムを作るとき、表現する何かをパッケージするときには、タイトル、曲順、歌詞、歌詞の文字一つ一つの表記、そして曲数にも長さにも拘る事がある。音だけじゃないこのアルバムのそんな想いを全部読み解くことはできないかもしれないけれど、憧れの人と同じだったら嬉しい!な。そんな思いで思いを巡らせながら書いてみたいと思っている。
DISC 1、DISC2ともに、9曲入り。同タイトルの「セプテンバー」が東京バーション、札幌バージョンと2バージョンで収録されている。DISC 1は「東京」、DISC 2は「札幌」ということなのだろう。そして9曲目にセプテンバー、1年を巡り切らないこの9月という曲が重要な記憶の点だったのだろうかと伺わせる。爽快な見切りのような気持ちも感じて、9曲目からまたスタートにループして1曲目を迎える瞬間の気持ちが私はとても好きだった。これは止めないでループして感じて欲しいなとひとつ思うオススメの点のひとつ。
私はこのアルバムで感じた人間くささのようなもの含めて、ステージから何万人をも熱狂させるサカナクションというバンドに対して、烏滸がましいけれど、あ、同じ人間かもしれない…と少しほっとした部分があった。
そして、もう12年も前の話だが、札幌のCORONYというライブハウスで偶然、山口さんにお会いした。私自身のキャリアも始まった頃に行った札幌ツアーで、主催バンドのお客さんとしていらしていた。おそらく東京に拠点が移るメジャーデビューの頃だったのかなと思う。私もその時の記憶を思いだして自分についても考えるきっかけになった。
一曲目の「忘れられないの」は現時点から客観的に見ているかのような、ロック、ポップスとダンスミュージックの融合、希望に満ち溢れた歌詞を乗せて、何かを背負う責任感、不特定多数の誰かの背中を押し、リスナーが同じように体を揺らすのが想像できる楽曲からスタートする。
二曲目は「マッチとピーナッツ」。“またこぼれた心がこぼれた”ループするビートとコトバのループに体を揺らす、ダンスミュージック。溺れては浮遊していくのが“ランラーラン”というコーラス
三曲目 「陽炎」前曲「マッチとピーナッツ」とのコーラス“ラ”のがより強く前進し、楽曲をスタートさせる、繰り返し多用されるメロディがパワフルダンスミュージックへと発展させて行く。ダンスロック最強楽曲。
四曲目 「多分、風」 ビートのスピード感が増し、ボイスのダブ、エフェクティブなフィル、多様性あるタムの使い方が面白く、“風 走らせたあの子にやや熱い視線 焦らせたこの季節に連れて行かれたら”というサビの展開に引き込まれていく。
五曲目「新宝島」 サカナクションの人を魅了させ対話して自然と心地よく巻き込まれる楽曲。いつのまにか “このまま 君を連れて行くよ 丁寧に描くよ 揺れたり震えたりしたって 丁寧に歌うよ” を一緒に歌いたくなる。そして、音楽に対して真剣な想いの溢れる一曲。私にとって何度でもスタートきれるならと気持ちを確かめられる曲になった。
六曲目「モス」“繭割って蛾になる マイノリティ揺れてる心ずっと 三つ目の眼”
個人的一押し曲。曲を完成させる上で、自分を客観的にみて出来上がった曲が果たしていいものか、本来あるべき姿かとても悩むから。ダンスミュージックの根源、ループ音楽と歌詞の温度差、、私はこの距離感がすきだけど、でも歌詞が刺さりまくって痛い。
七曲目「聴きたかったダンスミュージックリキッドルームに」。まさに、あの恵比寿のリキッドルームの曲。音に埋れて、東京での欲望も溶けて自分がなくなる瞬間を感じて、クラブに行って踊りたくなった。24時をすぎても25.26時と続く1日が終わらない時間を。
八曲目「ユリイカ 」前曲「聴きたかったダンスミュージックリキッドルームに」を受けてのアンビエンスな始まり、朝を迎えてふと我にかえる瞬間あるでしょう。そんな空虚感を感じる。正解と不正解を自分に問わなければならない瞬間。そんな曲。Shotaro Aoyama Remix。終わりは東京の街の雑踏に帰っていくフィールドレコーディングが重なっている。
九曲目「セプテンバー東京Version」記憶や思い出を振り返るようなノスタルジックな楽曲に仕上がっている。言葉にして語れない部分が、音の効果や音色によって表現されているような意思ある沈黙似た静寂を感じるアレンジ。

2枚目がスタート。「グッドバイ」さよならから始まる今までになかった違和感。あ、私サカナクションというバンドをよく知らなかったかもしれない…いつの間にか私の脳も凝り固まったダンスロックバンドのイメージが染み付いて、想像できなかった世界。丁寧に移ろう情緒。一音一音の繊細さ。最高にエモーショナルなロックバンド。いつだって音楽は衝動的でいいんだ。
二曲目「蓮の花」王道ロックバンド、安定したタイトなドラム、乾いた金物の音。芯のある楽曲。ベース音の永遠に続くのを予感させるレガートが歌詞とリンクして心地よい。
三曲目「ユリイカ」1枚目の楽曲に比べて、歌詞の一節のように、寂しさは感じず、風が吹き抜けて電子音の4つ打ちビートで、自分のペースをたもち続けている印象。
四曲目、「ナイロンの糸」バンドのメンバーが向かい合って、一音を大事に鳴らしている様子が想像できる、テンポ感が大事なバンド力を感じるパワフルでありながらも、ノスタルジーな一曲。私的推し曲!!”この海に居たい“が このyou & me に居たいと空耳してホロっとした。
五曲目、「茶柱」音の少ない、少しモジュレーションで揺れるようなピアノが印象的。歌詞の情景を浮かべて聴いて欲しい。更に奥深く遠い過去を想う曲のような…
六曲目、「ワンダーランド」の展開に鳥肌立った。ホワイトノイズで楽曲が深く埋もれる瞬間。誰もが持つ夏のあの思い出とか、夢からの目覚めとか、思い描いた幸せな幻想も一瞬で拭い去られるような演出でドキッとした。
七曲目、「さよならはエモーション」私自身がスクエアプッシャーの「Iambic 9 Poetry 」を初めて聴いた時のエモーショナルさを思い出した。はやる気持ちを抑えきれない衝動は突然、涙を振り切って見切りをつけたて進みたくなる衝動的なさよならの曲。ラストエンディングのコーラスに背中を押されるようだった。
「834.194」8曲目の∞(無限) そこが東京と札幌のきれない距離。みんなにもあるでしょう。『8』という数字も無限に見えてきた。漂う熱量のある言葉のないインスト曲。
ラスト9曲目 「セプテンバー」の札幌バージョン。目、鼻、手触り、耳、匂い、五感の記憶が蘇るような曲。日本語のナチュラルな肌触り全部が、安堵感を運んでくる。

「東京」をテーマにした1枚目は、曲順どおりに歌詞の言葉が、糸で繋がっているように、流れて行くのを感じ、故郷をテーマにした2枚目は、記憶の点としてより深く情景や心情が浮かぶ。
自分自身との向き合い方やその奥にある感情を考えながら、未来のサカナクションの活動を多角的に楽しみにしながら、あぁ生きてきてよかった!という瞬間を、大事にしたい全ての人に届いてほしいと心から思っている。



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34423電子音楽家

投稿者の過去記事

愛媛県出身、東京在住。電子音楽家。コラージュ音楽家。幼少より録音機器や楽器にふれ、独自の音創りをはじめる。容姿と相対する硬派なサウンドと鮮烈なヴィジュアルイメージで注目を集め、2013年待望の世界デビュー盤『Tough and Tender』(邂逅)をリリースし話題をさらった。
2015年に2nd アルバム『Masquerade』(邂逅)をリリース。
また、鈴木光司原作・福田陽平監督のホラー映画『アイズ』、田中佑和監督長編映画『青春群青色の夏』、ヤマシタマサ監督『東京ノワール』など多岐にわたる映画の劇伴や、広告音楽、サウンドロゴなどの作編曲も手掛けている。
2018年は、5月より3ヶ月間デジタル配信での連続リリースを行い、ラップトップの他、モジュラー、コンパクトエフェクターなどのアナログ機材を使用したライブパフォーマンスが話題。

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