[先行Review] 須田景凪 – porte

学校で、流行りのSNSで、夕方の電車の中で。話題にあがる。彼の歌。若い世代では「須田景凪の歌」はすでに共通言語として認知されている。その証拠に10代のカラオケで歌われた曲ランキングは圧巻の1位を記録。TikTokでも動画によく楽曲が利用されている。現在、須田景凪は「大人はまだ知らない。」そんな何処かいびつで、どうしてか若者がこぞって惹きつけられるアーティストとして今の音楽シーンに君臨している。
しかし今回の2ndEP「porte」にはテレビアニメ「炎炎ノ消防隊」のエンディング主題歌と映画「二ノ国」の主題歌がそれぞれ収録されている。きっとこれを契機に大人たちにも彼の存在は知れ渡っていくことになるだろう。「porte」はフランス語で扉を意味する単語。きっと彼にとってこの1枚が今まで閉ざされていた大人の世界を開く新たな「扉」になるに違いない。世界を変える2ndEP、早速レビューしていく。

1曲目「veil」ベイル。頭にかぶるもの。覆い隠してしまうもの。不定形で相手に合わせて形を合わせるベイル。どこか古びたテープのように歪んだレトロな歌い出し。自分の中だけに響くみたいに語りかけてくる声。「宙を舞った言葉じゃ あなたを救えないのだろう」EP頭から仕掛けてくる。やられた。もうかっこいい。先ほども紹介した「炎炎ノ消防隊」のエンディング曲。すでにMVも公開され、何度も繰り返し聴いているのだけれど、本当にかっこいい。アップテンポで、サビにワッと盛り上がるこの感じ。まさに須田景凪らしさが溢れて止まらない。アボガド6が手がけるそのアニメーションも、毎度ながら彼の歌と混ざり合って、よりお互いの魅力を高めあっている。このMVでも「シャボン玉」「人」「りんご」「魚」それからまた「人」次々に変わっていく主人公。目まぐるしくいろんなものになるけれど、本当の彼はどこにあるのか。救えないあなたとは誰なのか「さよならは 言わずに 何処かでまた会えるように」そうして飛び降り、目が覚める彼。映像のラストシーン。自分が救いたいのは自分自身だったりして。

2曲目は映画「二ノ国」の主題歌を務める曲。「MOIL」だ。モイル。コツコツ働く、という意味らしい。飛び跳ねるようなポップでキャッチーな曲調。相反するように物悲しい歌詞。「思い出すのは砂を噛む様な 茹だった焦燥と幼い白昼夢の続き」。濃縮された彼の過去が・想いが歌になって聴き手に迫ってくるみたいな圧迫感。それくらいのエネルギーをこの歌からは感じる。「大人になった 大人になってしまったみたいだ 左様なら」思春期特有の生きづらさが、ぐちゃぐちゃな言葉にできない様な感情が、歌の底にゆっくりと渦巻いている。だからこそ聴くと揺さぶられるのだろうと思う。誰しも持つ自分の青年・少女時代の記憶に共鳴する。万人に聴いてもらいたい曲。

3曲目「語るに落ちる」今まで須田景凪が歌ってこなかった、雰囲気の新たな歌。お風呂場で歌うときに、声が反響してこもって聴こえるみたいなエフェクト。のんびり草原に寝転がってリラックスしながらかけていたい。ほのかに切ない歌詞も大きな魅力の1つ。「愛せなくても仕方ないから くだらない世界だから 随分と考えた いつまでも遊んでいようぜ」本人の声とギターの音が主役で、なんとなくシンプルにも感じられるのだけれど、裏に聞こえる水が流れる様な・レコードが擦れる様な、ちょっと入るノイズがむしろ音に厚みを作り、この不可思議な安らぎの音を作り出している。

4曲目「青嵐」あおあらし。こんな言葉があることを今まで知らずにいた。初夏の青葉を揺する強い風のことだそうだ。「笑って 晩夏に思い出して 喜雨は君の為のものだ」また様変わりした曲調。行進のときになる太鼓の音・クラップ音・ピロピロとした機械音・声の反響・木琴を叩くような音。複雑に交差して、絡み合って、でも混線することなく、美しく凛として曲としての体裁を保っている。歌は一定のリズムで、前へ前へと決まった終わりに向かって進んでいく。「空も熱も抱く大きな穴でさえも 並んで比べた背丈はもう覚えていないけれど」

5曲目「couch」最後の曲はカウチ。寝床・寝椅子の意味を持つ単語。この中に収録されているどの曲よりも、バンド然としているというか、言葉を選ばないで表すのなら「普通のポップソング」らしい。でももちろん、魅力がないという意味ではない。わかりやすくいい曲だと思う。その中に須田景凪が持つ彼の魅力、歌詞の言い回しや、揺らぎの様ないろんな音の組み合わせ、加えてこの疾走感。余すところなく自分の武器を装備して、真正面から時代にぶつかってきている気がしてならない。「今なら痛みも厭わないから 僕らの願う不様な未来に間違いはないと思う」須田景凪の音楽が幅広い世代の中でも共通言語となれるよう、その狼煙のような、1曲。

さて今回のEP曲数は5つとさほど多いわけではないが、圧倒的な今の須田景凪が味わえる一瞬の20分だった。しかもこのアルバムが彼のゴールではなく、そこに至る1つの扉でしかないと感じる。それくらい未来の爆発を予感させる現在の須田景凪の「最高の1枚」。やばいものが仕上がっていることは間違いない。ともかく子供も、大人もみんな聴いてほしいと思っている。

初回版ジャケット


通常版ジャケット


尾方里菜

尾方里菜デザイナー・ライター

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表現することが好きな、どこにでもいる普通の人。思い立ったらなんでもやりたい。我慢できない性質(たち)。
現在はデザイナーとして修行しつつ、このメディアでライターも経験させていただいております。
趣味は写真を撮ることと絵を描くこと。好きな言葉は「鳩だって死ぬところを見るまで不死身だ」よろしくどうぞ。

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