[Staff Recommend] キタニタツヤ – 「Seven Girls’ H(e)avens」レビュー

もはやネット発、ボカロPとして活躍していた人が自ら歌い、現代の音楽シーンを彩ることが当たり前となった今。着実に人気を伸ばしているキタニタツヤを知っているだろうか。2度東京で行われたワンマンは、どちらもソールドアウト。彼の作る独特の世界観はずっと聴くものを魅了し続け、そのファンを着実に増やしている。そんな彼の新しいアルバム「Seven Girls’ H(e)avens」がリリースされたとのことで、早速レビューしていこうと思う。

あるインタビューで二日酔いをテーマにしたとこぼした1曲目「Stoned Child」。繰り返しのサウンドが酩酊状態のようなグルーブ感を作り出していて、妙に心地よい。後ろから聞こえてくる歪んだチューンがこの浮遊感のある音をより一層、浮足立たせている。暗い夜道で酔っ払いながら爆音で聴いていたい。身体が揺れる。爆発するような激しさではないけれど、気づいたら脳の中を占拠して、リピートボタンがとまらない、そういう曲。ここに退廃的な言葉たちが小気味よく重ねられる。「 流れていく時間はずっとスロウなままで 感覚だけ尖っていった 「人間なんて辞めちまおうぜ」 」あたまからキタニタツヤの世界に突き落とすアルバムに仕上がっている。

2曲目は「花の香」今までなんどかMVにも、彼の世界を彩るエッセンスとして登場してきた花という言葉が、タイトルにすげられている。単調な進行の奥に潜む低い音の波が、曲に厚みを持たせ、この音楽を物々しく仕立てている。「 流れていく赤色に魅入られてしまった 汗ばんだその首筋に指を走らす 」今まで目に止まらなかったのにふと気づいた瞬間、魅入られて、視線が離せなくなるそんな花のような。怪しく蠱惑的で、進んでいくたびにほどけ、魅力が増してく、艶やかな歌い方が印象的。

うなるように自分の存在を誇示するような、高らかな声が響いてはじまる3曲目「トリガーハッピー」。短い破裂音の羅列が足をふみ鳴らし、行進する群れを、大量の人間の存在を感じさせるのだ。サビ前から2つの声が重なって、混ざり、消えて行く。「 たかが10グラム弱の鉛ひとつで弾け飛ぶような泥人形のせいで、生まれ来る煩悩の類が ウザったくて仕方がないよな だから全部壊してやんのさ 」決してがなりたてるわけではないのに音が確かな意志を持って飛び込んでくるようで、ずいぶんと激烈に聴こえる。

はじめてこの曲を耳にしたとき添加物てんこ盛りの、ケミカル増し増しな雰囲気だと、どうしてか思った。4曲目「Sad Girl」。MVはすでに2019年の3月には公開されており107万回の再生を記録している。 (もちろん他の曲も魅力的だ)ゆるくストーリーを持った歌詞と、それにどこか呼応するような映像。画面に様々な形で並べられた紫色の薔薇が象徴的にこの作品を彩っている。跳ねる鍵盤とブレることのないドラム、耳の上を滑る電子音が、軽薄でとても良い。「 一生、性と愛を引き換えにして 」彼女が得るのは「 即席の愛 」だけ。この割りに合わない重みがたまらなく愛おしく、だからこそ苦しい。

5曲目に用意された「君のつづき」は随分と優しい曲だ。でもお別れの曲。君のつづきを僕はみることはできないけれど、それでも幸せを祈る終わりの曲。古いフィルム映画のセピアなカラーがとってもよく似合う(気がする)。優しく紡がれるピアノと手拍子、それからドラムがなにかを祝福するかのように、鳴らされる。「 これから君はまた、新しいフィルムの上を歩いていく 歩いていかなきゃね 想い出の足枷を解いて、幸せになってね 」本来こういう曲はもっと湿っぽく鬱々としてしまいそうなものだけれど、カラッとして、ただ前だけを見据えた、執着の薄さ。そういう意味で手放す自分も、その相手の君も、同情される存在ではない凛とした関係性にぐっとくる。

古びたレコードちっくなノイズの混じるギターと頭の上を通り抜ける高音が耳を通り抜けて脳を揺らす。「君のつづき」と対になるであろう「穴の空いた生活」。6曲目。吹きっさらしで、間延びしたメロディの余白が物寂しさを作り出す。忘却を望まれていたはずの記憶がなくなることを恐れながら、それに浸って過ごす。けれど、これは諦めとか絶望ではない。「 もう僕は、前を向き歩き始める 君の体温が薄れゆくことに慣れるまでは 」。

7曲目は「クラブ・アンリアリティ」つい先月の終わりに配信されたこの曲はまさにこのアルバムの意味や立ち位置をそのまま総括するみたいで、とにかく最高だ。MVはひと昔前のインターネットを模したサイケデリックな映像が多用されている。リアルとバーチャルが一緒に並べられ、その境が曖昧になる。音の波に溺れる。シティポップっぽさもあり、どこか懐かしい。一節の中に敷き詰められた言葉たちが、キタニタツヤによって性急さをもってばら撒かれる。「 逃げ場がない、悲しみの置き場がない ヤケクソの子供たちをゲームボーイだけが救ってきたんだ 」画面の向こう側からこっち側においでよと手招く。MVの始まりと終わりに映し出されるマックブックの仄暗い液晶がリアリティをもってこちらを覗き込む。アンリアリティの世界は、すぐそばにあるぞと、そう囁いているように思えてならない。「 でも大丈夫だよ 現実なんて逃げ出して ねぇきみもおいでよ 」。

彼の世界観はそのままに、ぐんと幅の広がった音楽たちがつまった1st Mini Album「Seven Girls’ H(e)avens」。言葉で表現するのがはばかられるぐらいどれも魅力的で、たまらない名盤だ。アングラな死に対しての執着が、また別の形になって、現在のキタニタツヤを作り出している。少なくとも彼の認知度はこれからもっと高まって行くだろうし、だからといって決して浅く薄まったりはしないまま、純度の高い音楽がきっと積み上げられていくのだと思う。本当に素晴らしい時間を味わうことができるからこそ、ぜひ今回のアルバムを聴き、この瞬間のここにある世界を、余すところなく楽しんでもらえたら幸いだ。

尾方里菜

尾方里菜デザイナー・ライター

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表現することが好きな、どこにでもいる普通の人。思い立ったらなんでもやりたい。我慢できない性質(たち)。
現在はデザイナーとして修行しつつ、このメディアでライターも経験させていただいております。
趣味は写真を撮ることと絵を描くこと。好きな言葉は「鳩だって死ぬところを見るまで不死身だ」よろしくどうぞ。

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