[Live Report] キタニタツヤ – 2019年10月4日 Hugs Vol.1@SHIBUYA WWWX

PELICAN FANCLUB


odol

来たる10月4日。3つのバンドが一堂に会するキタニタツヤ主催のイベントHugs Vol.1が開かれた。一様に浮かれた人々が、まだ暑い空気を揺らしながら螺旋状の階段を上ってたどり着いた渋谷WWWX。19時から始まったライブは1組目のPELICAN FANCLUB、2組目のodolともに、どちらも素晴らしい演奏を披露した。そしてついに彼の番が回ってくる。楽器の入れ替えとチューニングから数分の空白に観客が焦らされたころ、照明が落とされ軽妙な音楽がかかる。沸き起こる拍手、キタニタツヤが舞台上に立った。

早速はじまる1曲目、「Stoned Child」。どこか気怠げで、マイクに向かって溢す言葉たちのぬるりとした進行、テンポがたまらない。「チルタイム終わりの合図「閉店のお時間です」」の歌詞が会場中に広がって、溶けていく。火にかけられた水のように、ジリジリと気持ちは盛り上がって、彼の音に昂らされていくのがわかる。そうやって音に酔う観客の様子を、挑みかかるような目線で見つめる彼がどうにも印象的でもあった。

息つく暇を与え2曲目「きっとこの命に意味はなかった」。地の底から響いてくるようにずしりと重たいドラムの音の中、悪魔に取り憑かれたかのように髪を振り乱して、舞台で身体を揺り動かす。彼の視線はずっと虚空を泳ぐ。希死念慮のつまった言葉たちを力強く、エネルギッシュに歌い上げる様子はどこか触れてはいけないような畏れのような感情を覚えた。それでも私たちは視線を外せない。

サイケな色のライトが光回って、一瞬歪んだ音で会場が満たされた。3曲目「夢遊病者は此岸にて」。よりライブは加速していく。マイクにかぶりつくよう音を叩きつけ、会場に向かって指先を向ける。ついてきているか?と確認するかのように。ドラムの佐藤ユウスケがおもむろに立ち上がって、手拍子を求めた。秋好ゆうきも笑みを浮かべながら、ギターをかき鳴らす。「死ぬまで解けない呪いに浸かりきった僕はもう救えないな」お世辞にもポジティブとは言えない歌詞たちに脳天まで蕩かされる。キタニタツヤの世界が完全に出来上がっている。

 「改めてきてくれてありがとう。僕のファンだけじゃなくて他のバンドのファンもきてくれて嬉しいです。このイベントは、もともとネット出身な僕がいけいけの友達をつくりたくて…。ボリューム1と今回あるように、2、3もやっていきたいとは思っています。いやまだ全然確定とかはしていないよ?!いろいろな音楽をやっている人と友達になりたい。もちろんお客さんとも、この中にいるsadgirlとも」

こうしてスタートする4曲目「Sad Girl」。どこか退廃的な深夜の新宿を思わせるネオンのように光るライト。どろりとしたピンクが目に飛び込んでくる。お馴染みの歌詞が音源よりも叙情的だ。「わかってるよ? きみは夜の居場所を探して、身体を差し出して 何人と、何十人と、即席の愛を交わした?」シンバルの音が耳に突き刺さるように響き、それがどうしてか彼の歌声を妙に際立たせていた。

おどろおどろしい低い声が会場の中に充満する。そうしてサビで一気に弾けた。5曲目は「夜がこわれる」だ。独白のように駆け抜ける歌詞を、強弱をつけ観客に一番伝わりやすい形に変換してくれる。長い曲でないから凝縮された彼の世界が音で、光で、振動で、観客めがけて降り注いでいく。

じりじりと焼き焦がすような6曲目。神秘的なメロディ。ポーっと高く打つような音が時折響いた。「君が夜の海に還るまで」。これまでやってきた曲とは雰囲気の違う物寂しさが漂っていた。今までハンドマイクだったキタニタツヤがベースを抱える。演奏に低音の波が加わることで、曲は抜群に太く厚みを増した。ライブだからこそある間の取り方や生まれる余白が静かで不規則に揺れる波をイメージさせる。

泡みたいな丸が重なったライト。7曲目「波に名前をつけること、僕らの呼吸に終りがあること」。照明で水中を思わせる水色と黄色に包まれる会場。歌の中にある盛り上がるタイミングが会場全体でずれることがなく、常に気持ちよく音に乗れる。サビ前のドラムだったり、余韻を残してくれることであったり、期待を煽るのがほんとうにうまい。ラスサビだけのアレンジ、粒立って聴こえるギター。いろんな要素が絡まることなく、作用し合っているのが圧巻の演奏だった。

8曲目は「記憶の水槽」。さきほどまでのベースを再度手放し、マイクを握る。ライブで聴いたのは間違い無くはじめてなのに如何してか懐かしい。セピア色のイメージ。喫茶店とか深夜のバーでやっているこじんまりとした演奏のような雰囲気を、この瞬間のライブハウスは有していたように思う。マイクを通さず感情のままに歌うキタニタツヤがシンプルにただ歌うことを楽しんでいるように見えた。

「思ったより会場がでかくてびっくりしました。前回のライブで埋めたところより……」
ここで拍手が起こる。「えー?そんなつもりじゃないんだけどな」はにかんで笑う。「ちゃんといっぱい入っていて嬉しい」
「バンドの音楽をあまり聞かない人も僕のファンの中にはいると思うんですが、楽しめましたか?……うん、オススメした甲斐があった。後半戦いこうと思うのですが、皆さん歌ってもらいますからね、よろしく」

「飛べるかい?」そう煽って9曲目は「悪魔の踊り方」だ。格好良いがすぎる。思わずニヤついてしまう。「お前らに完璧で間違った踊り方を教えてやるから」そんな歌詞を体現するかのように、舞台の上で悪魔みたいに踊りまくる。手を振りかぶって、マイクを会場に向け、飛び跳ねた。それらすべてが様になりすぎているのだ。さぁ歌えとこちらを見下ろしたかと思えば、今度は自分の番だというように、高らかに歌い上げる「今夜、悪魔がお前らにこう云うぜ「神とやらに惑わされるなよ」」。

歌ってくれと手を振る。ぐにゃぐにゃと身体を動かす。終わりに近づいていくライブをさらに加速させる「トリガーハッピー」が10曲目を飾った。はじまってすぐほとんどがなりたてるみたいに吠える彼の声。柔らかそうな肩の上まで伸ばした髪が、表情を読み取れないようにしていたけれど、時折こちらを振り向くタイミング何度かふわりと覗いた彼の目は必死にマイクに縋り付くようにも、聴衆に力を誇示するようも見えた。

11曲目は「I DO NOT LOVE YOU.」白いライトがまっすぐに伸びては何かを探すみたいにあたりを照らしまわった。その照明の下に立ってマイクのコードを身体に絡ませながら悲しみにまみれた歌を歌うキタニタツヤ。「誰か、僕の悲しみに気づいて 誰か、僕の憎しみをほどいて 誰か、僕の苦しみに寄り添っていて」ここにいる不特定多数の人間にこのメッセージをばらまいていく。音源の彼とリアルな彼の2つの声がかけあって生み出される、まさにライブでしかできない演出がすごく印象的だった。

「この曲もみんなも歌えるよね」そうおもむろに発し12曲目「クラブ・アンリアリティ」。特徴的なメロディが流れ出す。自然と身体を動かしたくなる。ミラーボールの細かい光が会場中に散らばっている。音楽に合わせてうごめいている人々の腕や熱気を帯びた空気。「極彩色マシマシのサイケな夢を見ようぜ クラブ・アンリアリティで」この空間がキタニタツヤの作り上げた一個の作品なんじゃないか。そう思わせるほど最高の瞬間がそこにはあった。

そうして全12曲を終え「どうもありがとう」とキタニタツヤが告げ、彼らは退場していった。再びの登場を望む拍手がすぐに沸き起こる。そして、そんなにたたないうちに物販のTシャツに身を包んだ彼らが戻ってきた。

「いやこれまじでいい。やりたい事を詰め込みまくったら値段高くなっちゃった。ごめんね。でもかわいいから…」
「それで告知があるんですが、ツアーを東名阪で行うのでぜひ応募してください!締め切りまで短いのでここにいる人が来れるくらいかな」
「それでは最後1曲やって帰ります」

アンコールは「芥の部屋は錆色に沈む」。先ほどと同じように、もう1人の自分とかけあって駆け足で曲を作っていくのが、疾走感に溢れていて、振り落とされないようについていくのが精一杯だ。最後を満喫するかのように存在を主張するそれぞれドラム、ギター、ベースの音が競い合って、溶け合って、ぐちゃぐちゃだ。現実離れしたその音楽に、今がリアルであることに驚きすら覚えるような圧巻の世界だ。

全13曲、やばすぎる時間だった。本当に誇張なく万人に見て欲しいと思うし、自分が観ることができなくなるのはあまりに惜しいから、知られることのないようにあって欲しいと焦れったく思ったりもする。それくらい素晴らしいライブであった。ネットの世界から飛び出してこれからどう音楽シーンを盛り上げていくのか。本当に目を離すことができない存在だと思う。ぜひキタニタツヤの曲を聴いて欲しい。

【セットリスト】
01, Stoned Child
02, きっとこの命に意味は無かった
03, 夢遊病者は此岸にて
04, Sad Girl
05, 夜がこわれる
06, Yomi 〜 君が夜の海に還るまで
07, 波に名前をつけること、僕らの呼吸に終わりがあること。
08, 記憶の水槽
09, 悪魔の踊り方
10, トリガーハッピー
11, I DO NOT LOVE YOU.
12, クラブ・アンリアリティ

EN, 芥の部屋は錆色に沈む

Text by 尾方里菜

Photo by 後藤壮太郎

Kohei Murata

Kohei Murata編集長・ライター

投稿者の過去記事

バンド活動を通して、自分の音楽を世界に発信する事を志しながら、同時に仕事での独立を目指して様々な業種を経験する。バンドでは日本のみならず台湾でも活動を行い、台湾でのアルバム2枚のリリースや大型野外フェスティバルへの出演も果たす。
その後、様々な仕事を経験し2015年独立。
現在は音楽メディアOptimanotesの編集長兼ライターとして、記事の執筆をしている。

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