神山羊 – 「ゆめみるこども」レビュー

あなたは神山羊を知っているだろうか。この記事を読んでくれるような方であればきっと知っていることと思うのだけれど、最近の彼の勢いは本当に飛ぶ鳥を落とし、さらにその上の飛行機すら落としてくるくらいのエネルギーでもって躍進している(ように思う)。先日恵比寿ザ・ガーデンルームで行われたライブ「しあわせなおとながねむるとき」は即座にチケットが完売。その後も他のアーティストを招いたイベントを行ったり、映画『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』の挿入歌で、DAOKO「はじめましての気持ちを」の作編曲を担当したり、ずっと真夜中でいいのにの楽曲「君がいて水になる」のアレンジャーを担当したり、本当に様々な方面で活躍を遂げている。そんな彼のセカンドミニアルバム「ゆめみるこども」が10月23日に発売となった。ファーストミニアルバムと対になるようなネーミング。中に詰められた8つの音楽たちは私たちに何を感じさせてくれるのだろうか。早速聴いていこうと思う。

 1曲目「Child Beat」
鼓動というには早い速度で乾いた何かを叩く音が、鼓動のように一定のリズムで流れ続ける。「目を覚ました 君は誰だ 今は遠い昔の顔」迷い込んだ彼の世界の中で、自分とは一体何者なのか、問いかけられた。心のなかがざらつく。どうしてだか居ても立っても居られない心地がする。おもちゃ箱をひっくり返したときみたいにいろんな音が混じり合って、妙ちきりんな響きを生み出している。その中でも跳ね回る高い鍵盤打楽器の音が、その存在を主張しきっていた(もしアップテンポ子守唄というジャンルがあればそこに属する気がする。絶対ないけど)。「もう子供じゃない そんなこと構わない はじまりの合図を鳴らせ 今、ここで帰りを待つ 息を潜めその日を待つ」これは罠だ。神山羊の仕掛けた罠にまんまとハマったような気がした。最高を約束する、彼の世界に突き落とすはじまりの曲。

2曲目「アイスクリーム」
この曲はMVと共に発表されているから、一緒に見たのだけれど「普遍的になったな」と漫然と思った。普遍、というよりは今まで聴いてくれていた層ではない人たちへも歌を届けたいと願っている、の方が正しいのかもしれない。まるっこい二頭身主人公が、よくわからない犬みたいな相棒と生活する様子を、正方形の窓から覗き見る。(このキャラクターがみんなに愛される顔なのか、とかはいまいちわからないけれど)Shotaro Kitadaの手がけるアートワークも今までにはなかった雰囲気だ。その燻んだ色味の中に独特の懐かしさを見つけ出すことができる。それとは裏腹に神山羊らしさを多分に含んだ毒を孕んだ歌詞。「思い出せなくなる あなたの声さえも」知らず知らずのうちに聴いているものの内側に入り込んでくる。

3曲目「bunny」
怪しげな外国人の声が聴こえる。がっつりの音声エフェクト。電子音ぽさを抱えて、従来の、ボーカロイドで音楽を作っていたとき「らしい」という感じとも違うのが、また魅力的だ。どちらかというと爆発的な人気を今も誇っている「yellow」の系譜を感じる歌詞回し。「これからバニーあなたの裏側へ 言葉にできないほどにいいさ 飛び跳ねて ふらり 捕まえて はらり」心地の良い言葉の波に乗って、疾走感の中で泳ぎ回るような快感を味わうことのできる最高にキマった曲だ。

4曲目「ope (Till that Time)」
一時小休止、なのかはわからないけれど、この曲が一旦挟まる。最後の次の曲へ移りかける演出が、ゲーム音楽っぽくて素敵だ。ちなみにカッコで挟まった英語の意味は“そのときまで”だ。

5曲目「CUT」
この曲について言及するのにMVに触れないわけにはいかない。本人が登場し、色っぽく踊りあげる。今までになく顔もはっきり確認することができる(青い棘からは髪型が変わって与える印象が様変わりしていた)。眼に眩しいサイケデリックな画面が映し出されては、名前の通り、切り取られ移り変わっていく。イラストと実写それから3Dが組み合わされて、一時代昔のインターネットに転がっていたような、でも見たことがない目新しさも同時に抱えているような、そういう世界。有機酸の音楽を色濃く受け継ぐ曲調。安心感のある低音、ベースライン。「ついではいで全部嫌になって ごっこだって そっか癖になって 溢れる 途切れる」歌詞も神山羊の魅力がありありとわかる仕様だ。今までの彼と新しい見たことのない彼が合わさって、全く新しい作品として成立させている。

6曲目「夜を終わらせないで」
ゲームサウンドらしい歪んだエフェクトがかかる。叙情的に歌われる、聴き手にすがるような、甘えるような歌詞の羅列。「話がしたくて 息を切らして 迎えにきたんだ」。ねっとりとした絡みつく音をかき分けて、彼が十八番とする身体の奥を震わす、重たいベースが曲をしっかりと支えている。

7曲目「ヘルタースケルター」
なんども聴いてきた、どうにも形容詞しがたい鳴き声らしき音が、歌い出しを飾る。きっと今まで有機酸を聴いてきた人なら、名状できない懐かしさと嬉しさを覚えるはじまりだと思うのだがどうだろうか(自分は少なくともそうだった)。ヘルタースケルターには‘’慌てふためく、混乱する、しっちゃかめっちゃか‘’といった意味があり、ともかく正常ではない状態のことらしい。「皆 主役さ まやかしなんだ まだ夢の中だ」。何度もなんども繰り返される「BLACK」と「BAD」の2つの単語だけ調子が違っており、ただただ音として連呼される、そういう楽器としてその音が使われている風にも感じられて面白い。

8曲目「おやすみ、かみさま」
ピアノと彼の声だけのシンプルな構成に、シンバルが追加され、気づけばいろんな音が加わって、深みを増して、複雑になって、終わりに向かって邁進していく。「おやすみ かみさま」と歌詞中でも、曲のタイトルで示されている、ねむりにつく‘’かみさま‘’とは一体誰のことを指すのだろうか。いつも忘れてしまっているこどものころの、神山羊の手で起こされた自分だろうか。なんにせよ、答えを明確にしない、余韻を残すこのアルバムを締めくくるにはぴったりな曲だと思う。

全部で25分のパラレルワード。濃厚な神山羊の精神世界に否が応でも入りこむことが可能だ。思った以上に長いレビューになってしまったから、まとめは簡潔しようと思う。ひどく現代的で、やばすぎる1枚なので是非とも今聴いてほしい。

尾方里菜

尾方里菜デザイナー・ライター

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表現することが好きな、どこにでもいる普通の人。思い立ったらなんでもやりたい。我慢できない性質(たち)。
現在はデザイナーとして修行しつつ、このメディアでライターも経験させていただいております。
趣味は写真を撮ることと絵を描くこと。好きな言葉は「鳩だって死ぬところを見るまで不死身だ」よろしくどうぞ。

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